第3部・誰一人取り残さない(5) 川西・吉島編(中)~幸せの羅針盤|山形新聞

幸せの羅針盤

第3部・誰一人取り残さない(5) 川西・吉島編(中)

2021/1/7 08:13

 食料品や日用雑貨を詰め込んだコンテナ付き軽トラックが、川西町内の高齢者宅を1軒ずつ回っていく。「毎週、毎週楽しみでよー」「いつもどーもー、おしょうしなー」。家から出てきたお年寄りが、じっくりと品定めをしながら買い物を楽しむ。集落から山間部まで幅広くカバーする移動スーパー「きらり便」だ。

 川西町吉島地区のNPO法人きらりよしじまネットワークは、過疎地域の活性化を目的とした国の交付金を活用し、2019年に移動販売事業を開始した。

 町の統計資料によると、町内の高齢化率(65歳以上の割合)は年々上昇し、15年は33.9%と20年前(22.5%)から11ポイント以上高くなっている。店が少ない実情を踏まえ、買い物など町民のちょっとした困り事を解消する仕組みづくりが不可欠だった。

 地域巡回型の移動販売は、各交流センターや商店、スーパーなどとの連携によって吉島地区だけでなく、町内全域での展開を実現した。巡回日は毎週火曜と水曜に設定。現在は34軒の利用登録があり、2日間で17軒ずつを回る。高齢者の見守り活動も担い、住民の日々の暮らしと安全を支えている。

 NPO法人きらりよしじまネットワークによる川西町内での移動販売は、年会費などはなく、その場で買い物代金のみを払ってもらうシステムだ。事業開始に当たり専従者を募集。手を挙げた地元の女性1人が運転と販売の両方の業務を担っている。

高齢者宅などを回る「きらり便」。生鮮食品や日用雑貨を販売し、利用者のニーズに応えている=川西町

■際立つ密着度

 町内は1軒1軒が離れている地域が多く、高齢者の中には歩くのが困難という人もいる。「きらり」事務局の神野一明さん(61)は「どこかに移動販売車を止め、集まってもらう形での営業は実態にそぐわない。戸別訪問することで『助かっている』『ありがたい』と言ってもらえるのが何よりのやりがい」と話す。

 移動販売事業をはじめ、「きらり」の取り組みは住民生活への密着度が際立つ。子どもから高齢者までが気軽に立ち寄れる場をつくろうと、2018年には産直ミニレストラン「まんま屋」の営業を始めた。国の交付金を活用して吉島地区交流センターの敷地内にプレハブの店舗を建て、調理場と10席ほどの客席を設けた。

 平日の午前中にカフェとして開店し、昼食の時間帯はおにぎりやカレーライス、うどんなどを販売する。県内外から「きらり」の視察に訪れる人たちの昼食の場にもなっており、調理は地元の女性3人が交代制で担当。川西産の食材を使った手作り料理は好評で、決まった曜日に来店する常連もいるほどだ。

産直ミニレストラン「まんま屋」では、地元の人たちが手作り料理を提供している

 昨年7~10月には居酒屋として夜間営業を試みた。新型コロナウイルス禍の中で来店者は1日平均5、6人にとどまった。ニーズがあるかは読めない試験営業となったが、「まんま屋」を拠点にした、新たなにぎわい創出の可能性を今後も探っていく考えだ。

■仕掛け次々と

 どの自治体も同じように抱える高齢者支援などの課題に対し、「きらり」の高橋由和事務局長(60)は「意識しているのは守りではなく“攻め”の自治」と説明する。移動販売やレストラン事業だけでなく、地域内のコンビニと連携した産直市場の設置など、次々と新たな仕掛けをしてきた。全てが試行錯誤としつつ「事業に携わる人を募ることで、まちづくりが地域の雇用も生み出しているのは間違いない」と手応えを口にする。

 積み重ねてきた取り組みは広く注目を集め、最近では「『きらり』で働いてみたい」と県外から問い合わせが来る。前例にとらわれない地域づくりの試みは続く。

[PR]
[PR]