第3部・誰一人取り残さない(4) 川西・吉島編(上)~幸せの羅針盤|山形新聞

幸せの羅針盤

第3部・誰一人取り残さない(4) 川西・吉島編(上)

2021/1/6 10:39
スクリーンに映し出された沖縄県の子どもたちと一緒に「エイサー」を披露する吉島小の児童=2020年11月、川西町

 昨年11月上旬、川西町の吉島小体育館で開かれた「吉島ふれあい祭」。初冬のひんやりとした空気が流れる会場で、小学生たちが南国・沖縄県の伝統舞踊「エイサー」を力強く披露した。その後ろに設置されたスクリーンには、吉島地区と交流を続ける那覇市繁多川地区の子どもたちが映し出され、一緒にエイサーを踊る。オンラインによる共演に両会場は温かい拍手に包まれた。

 来町を予定していた沖縄の子どもたちだったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で見送った。だからといってそこに「中止」の選択肢はなかった。

 ふれあい祭を主催したNPO法人きらりよしじまネットワーク事務局長の高橋由和さん(60)は言う。「『コロナだからやめる』ではなく、『コロナだけれど何ができるか』。そういう考え方が大事だと思うんです」。高橋さんたちが取り組む多彩な活動には、そんな前向きな姿勢が貫かれていた。

SDGsの理念や目標と照らし合わせながら、地域づくりの方向性を語る「きらり」事務局長の高橋由和さん=川西町・吉島地区交流センター

 川西町の吉島地区交流センター(旧地区公民館)を指定管理者として運営するNPO法人きらりよしじまネットワーク(松田良弘理事長)は、町の行財政改革をきっかけに誕生した。財政難を理由に、町が町内7地区にある公民館の公設民営化を打ち出したのが2001年。住民説明会で方向性が示された当時、町体育指導員として吉島地区の活動に携わっていた、「きらり」事務局長の高橋由和さん(60)は「これはチャンス」と受け止めた。

 くしくも同時期、高橋さんらは仲間数人と勉強会を開き、吉島の将来の在り方を話し合っていた。共有していたのは人口減少、地域行事の縮小などによる危機感だ。公設民営化は行政に過度に依存しない地域づくりを可能にし、現状を打破する契機になり得ると考えた。

■決めない会議

 高橋さんや当時の公民館事務局のメンバーが中心となり、新たな運営母体をつくるため住民との意見交換を重ねた。時間をかけて合意形成を図り、吉島地区の全ての世帯が加入する「きらり」を組織し、07年にNPO法人の認可を得た。

 組織の特色の一つに挙げられるのが、「決める会議」と「決めない会議」を取り入れていること。年間行事などの計画を策定する上で、「決めない会議」と位置付けた住民参加型の話し合いの場を設け、アイデアや前年までの課題を幅広く集約する。その上で企画を立案し、「決める会議」となる総会を開催。住民の声を聞く作業を取り組みの第一歩に据えることで、全ての人が地域づくりに参画できるような工夫を凝らしている。

 具体的な事業については「自治」「福祉」「環境衛生」「教育」の四つの部会制を採用して展開。高齢者の生活支援をはじめ、児童生徒の健全育成など多岐にわたる。全部会共通の事業に当たるのが、今年は沖縄の人たちとオンライン交流した「ふれあい祭」だ。

■“発展目標”に

 そして今、高橋さんは国連によるSDGsの提唱が、「きらり」の活動にとって追い風と感じている。「誰一人取り残さない」という理念は、自分たちの歩みと合致するからだ。

 対外的な講演活動をこなしている高橋さんの説明資料には「きらり」の取り組みとSDGsを関連付けたページが用意されている。「われわれが今までやってきたことが17ある目標のいずれかに当てはまり、分かりやすくなった。私たちにとっての“発展目標”となり、これからの地域づくりをプラン化しやすくなっている」。そう言葉に力を込めた。

【メモ】きらりよしじまネットワークは吉島地区交流センターの運営のほか、移動販売や温泉旅館の閑散時間帯を活用したミニデイサービス、ボウリング場での介護予防事業などを実施。事務局スタッフは常勤6人、非常勤30人。住民の会費や自治体からの補助金などが財源で、事業規模は5千万~6千万円で推移している。独自の運営手法や人材育成のプロセスは全国的に注目を集める。

[PR]
[PR]
[PR]