第3部・持続可能なまちづくり(プロローグ)~幸せの羅針盤|山形新聞

幸せの羅針盤

第3部・持続可能なまちづくり(プロローグ)

2021/1/1 16:15
雲の切れ間から姿を見せ、飛島に注ぐ朝日。その光のように、若い世代が島民の営みを照らし、島の未来を描こうとしている=酒田市

 山々を覆う厚い雲の切れ間から朝日が姿を現した。海原には光の筋が伸び、島に新しい一日の始まりを告げた。本県唯一の有人離島・飛島の住民は200人に満たず、その8割が高齢者。島全体が限界集落だ。本県には中山間地や農村部に同じような地域は少なくない。連綿と続いてきた日常の暮らしを守り、未来につなげるためには一筋の光を頼りに、前に進み続けるしかない。

■若者の挑戦

 「いずれ、ここには誰もいなくなるかもしれない」。島で長く暮らす老人は海を見つめつぶやいた。県内の多くの過疎地が同じような危機感を抱えているが、酒田市の飛島は最も深刻な場所の一つだ。魚の群れが見えるほど透明度の高い海、ゆったりと流れる時間、多くの野鳥や海に落ちる夕日…。他にはない魅力もあり、春から秋にかけては多くの釣り客や旅行者が島を訪れる。

 ただ、冬は本来の島の姿が顔を出す。強く冷たい風と寄せ続ける高い波に囲まれ、定期船が去れば港に人の姿はない。集落をつなぐ道も人はまばらだ。背中を丸めた高齢者がゆっくりと歩いている。

 「このままではいけない」。飛島では島で生まれ育った若い世代が立ち上がった。古里と、そこで暮らす人たちを守るため会社を設立。「合同会社とびしま」と名付け、島の未来を描く。

■住民NPO

子どもからお年寄りまでが交流する川西町吉島地区の「ふれあい祭」。きらりよしじまネットワークは多彩な事業を展開し、持続可能な地域づくりを目指す=昨年11月、同町・吉島小

 かつて英国人旅行作家・イザベラバードが「東洋のアルカディア」と称した置賜盆地。ここでも住民が立ち上がり、古里を守る取り組みが進められている。川西町の吉島地区で地域の全世帯が加入し、住民の手で地域づくりを目指すNPO法人「きらりよしじまネットワーク」の活動だ。

 吉島地区は町の中心部から少し離れた置賜盆地のほぼ中央に位置する農村地帯。川西町の人口はかつて3万人を超えていた。2000年には2万人を割り、現在は半数の1万5千人ほどまで減った。人口減少が加速する中、行財政改革の一環で行われた地区公民館の公設民営化を契機に、吉島地区の住民たちは新たな地域運営の在り方を模索。07年にきらりよしじまを法人化し、高齢者の生活支援や子どもたちの健全育成、他県の団体との交流など多彩な事業を展開している。

 飛島と吉島地区に共通しているのは「誰一人取り残さない」という考え方だ。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の基本理念と軌を一にする。新型コロナウイルス禍の中にあっても、それぞれ着実に歩みを続けてきた。昨年10月にスタートした長期連載「幸せの羅針盤~SDGsと地域の未来」第3部は島と里で展開されている持続可能なまちづくりを追い、課題とその解決策を考える。

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