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第9部・空き家解消への道(2) 新庄市「万場町 のくらし」

2018/9/27 11:01

 焦げ茶色の板壁を配した昔ながらの建物。のれんをくぐると、光が柔らかく差しこむデッキ席、奥には裸電球が照らす小上がり席とカウンターが広がる。ジャズのレコード音楽が静かに流れ、客が食事と会話を楽しんでいた。

 ここは新庄市万場(ばんば)町の商店街にことし5月オープンした「万場町 のくらし」。まちづくり団体の一般社団法人「最上のくらし舎」が運営する。長年空き家だった築約100年の仕立て店兼住宅を改修し、喫茶と、イベントなどの貸しスペース、シェアオフィスなどに再生した。旬の味が楽しめ、学び合える交流スペースとして、地域住民の新たなよりどころとなっている。

 この日のランチは、地元の泉田里芋などが入った特製キーマカレー。お笑い芸人で料理研究家の三浦友加(ゆか)さん(36)=鶴岡市=が週1回、シェフとなって提供しており、おいしいと評判だ。「新庄・最上はおいしい食材の宝庫。だから作るのが楽しい」と力説する。接客に当たる最上のくらし舎代表理事の吉野優美(ゆうみ)さん(30)=新庄市=は「目標は『のくらし』が地域の人々の暮らしを豊かにする一部となること」と話した。

 新庄市の「万場町 のくらし」誕生のきっかけは、昨年5月に始まった「空き家プロジェクト」。都内の設計事務所に勤め、建物やまちの再生に携わる加藤優一さん(31)=同市出身=と、当時地域おこし協力隊員だった最上のくらし舎代表理事の吉野優美さんが発起人だ。

さまざまなイベントに活用される「万場町 のくらし」の貸しスペース。この日は認知症ケアの新技法の研修会が開催されていた=新庄市万場町

 加藤さんには「イタリアやドイツは、空き家というネガティブな場所に価値を見いだし、地域資源を組み合わせて新たな魅力を創出している。それは新庄でも実践できるはず」という思いがあった。空き家活用に興味のある人を募ると約40人が集まった。セミナーやまち歩きを通して情報を集め、まちづくりにつながるアイデアを膨らませた。

 その中で可能性を感じたのが万場町の元仕立て店。所有者の了解を得て、7月に付近住民と有志の協力で大掃除を決行し、新庄まつり観覧の休憩所として実験的に開放した。祭り道具を飾り、仕立て店の風情も分かるようにした。多くの市民に喜ばれたという。

 来場者にアンケートを取ると、お茶飲みをしたり、娯楽を楽しんだりできる場所を求める声が強かった。そこで加藤さんと吉野さんが最上のくらし舎を組織し、「のくらし」としての再生に本気で取り組むことにした。新庄信用金庫が事業パートナーとなり、日本財団が各地の信金と連携して行う「わがまち基金」から1千万円の助成を受けたことも実現の追い風になった。

 1階の約70平方メートルを喫茶と貸しスペースに改修し、通り土間はギャラリースペースにした。「先人に敬意を払い、仕立て店だった町家の趣を残した。新品の家具はまず入れていないし、外した欄間はすてきなので別の場所に使った」と吉野さん。周辺の人が年代物の大きな鏡や扇風機、雪げた、ランプなどを寄贈してくれた。地域と交流しながら魅力づくりができたことを喜ぶ。

 喫茶では地元の旬の食材で作る「最上のかあちゃん定食」も好評で、常連の60代男性客は「食材の質が高いし、木の空間で心が安らぐ」と話す。カレー作りに情熱を注ぐ三浦友加さんは「30代の勢いがある世代が中心となり、すてきな憩いの場所をつくった。頼もしいし、いい刺激になる」と語った。

 貸しスペースは、全フロアを半日(4時間)使って5500円と手軽な料金で利用でき、需要がある。認知症ケアの新技法のユマニチュードを学ぶ研修会、ライブ演奏、ラズベリージャム作り、てんぷらを食べる会…。さまざまなグループが集い、交流拡大の機会にしている。

 建物のシェアオフィスに入居する一般社団法人「ひとむすび」の鈴木直(すなお)さん(41)と協力し、月2回ペースで地域の高齢者らが集う「おしゃべりサロン」を始めた。1時間300円のお茶代で気軽に会話ができ、医療・福祉関係者も招いて困り事の相談にも乗る。互いに元気をもらえる場として地域も歓迎している。

 加藤さんと吉野さんの夢は続く。「10月28日にまた街歩きを行い、いろいろな場所でここなら何ができるかを探っていく。コミュニティーづくりに関わり、私の、あなたの、地域の暮らしが充実し、豊かになるようになればいい」

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