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第8部・増やせ交流人口(5) 高畠町「熱中小学校」(下)

2018/8/31 11:25
「和のくらし文化研究所」の内覧会で談笑する(左から)佐藤広志理事長、熱中小学校の仕掛け人である堀田一芙(かずふ)さん、宮原博通さん=8月19日、高畠町

 熱中小学校が高畠町の旧時沢小に開校してからほぼ3年が経過した。運営母体であるNPO法人はじまりの学校の佐藤広志理事長(70)は「この3年間で、予想もしなかった化学反応が次々と起きた」と感慨深げに振り返る。

 佐藤理事長が「起業家を育成したい」と力を入れてきた2階のオフィススペースは計6室あり、総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」を導入して通信環境や保安設備などを整えた。1カ月の賃料は5万円としている。

 これまでに小型無人機ドローンのレンタル・空撮業「360度」、住宅模型製作の「サンダル」といった企業5社が入居した。7月1日には熱中小の社会科教諭宮原博通さん(72)=高畠町下和田、元宮城大教授=が、日本の作法を伝えようと設立した株式会社「和のくらし文化研究所」が入り、満室となった。

 佐藤理事長は「入居者の中から、成功を収める企業が出てほしい」と大きな期待を寄せる。

 熱中小の校舎2階にある廊下では東北最大級となる鉄道ジオラマの製作が進められており、2017年4月から選択授業「ものづくり」に組み入れられた。専任教諭は内海弦アーム社長で、自身が集めてきた鉄道模型約350台を持ち込んで指導に当たっている。

 80分の1スケールのジオラマで再現するのは旧高畠鉄道が走っていた昭和40年代の高畠の街並みだ。住宅模型製作の「サンダル」に依頼して高畠石造りの高畠駅舎などを据え付け、今後は石切り場なども追加していく。生徒たちは理科室に設置されている3Dプリンターやレーザー加工機を駆使して街路樹の製作、車両作りなどに励んでいる。

 「地域から学校がなくなるということは住民にとって寂しい限り。時沢をはじめとする高畠町に恩返しをしていくのも熱中小学校の役割」。佐藤理事長は、熱中小を核とする地域活性化にも心を砕いてきた。

 その一つとして耕作放棄地となったブドウ畑約2ヘクタールの再生を目指すプロジェクトが16年4月、時沢で始まった。地元の農家、高畠ワイン(高畠町)との協働事業で、生徒たちが赤ワイン用の品種「カベルネ・ソービニヨン」の苗木300本を植えた。

 この取り組みは熱中小の選択授業「里山とワイン」に発展し、生徒たちが園地の整備などに取り組んでいる。将来的には収穫したブドウを高畠ワインで醸造してもらい、熱中小発のブランドワインとする構想だ。

 時沢小に児童が通っていた当時のにぎわいを地域の人たちに思い出してもらおうと、16年9月に「大運動会」を、17年9月には途絶えていた「ブドウ祭り」をそれぞれ開催し、時沢地区の住民と熱中小の関係者が交流を深めた。

 熱中小の教員による“化学反応”も起きている。内田洋行(東京都)のデザイン子会社「パワープレイス」のシニアディレクター若杉浩一さん(59)はスギを多用した施設や空間デザインを全国各地に広げており、15年11月、熱中小で道徳の授業を行った。これが縁となり、昨年5月に行われた新高畠町立図書館建設設計業務のコンペに参加。5社の中からパワープレイスが最優秀に選ばれ、設計を担当した。さらに同社は旧高畠四中体育館を改修して整備が進められている屋内遊戯場の設計も請け負った。ともに町産のスギ材をふんだんに使い、温かみのある施設として来年7月に完成予定だ。

 これまで順調に歩みを進めてきた熱中小学校。今後の課題は、地方創生推進交付金の最終年度と見込まれる2020年度末以降の学校運営だ。

 自立した運営に向けた共通の財源づくりとして、熱中小は17年5月に開設した通販サイト「熱中通販」の充実に力を入れており、各校のネットワークを生かした逸品を販売している。商品の質を保つため、出品に当たっては熱中ブランド審査委員会の審査に合格する必要があり、今後はイベント参加権や体験ツアーの販売も手掛けていく方針だ。

 佐藤理事長は「熱中小学校を通じて今後も交流人口の拡大、移住・定住の促進に寄与していきたい。そのためにも経済的な自立に向けた努力を続けていくことが重要になる」と将来を見据える。

(「山形再興」取材班)

=第8部おわり

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