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第1部・翻弄(ほんろう)[5] TPP 酪農への影響

2014/1/19 09:34
TPPに関する政府試算で影響が大きいとされた酪農業。県内の酪農家に不安が広がっている=上山市下生居

 県産牛乳がなくなる―。関税撤廃を原則とする環太平洋連携協定(TPP)の影響に関する政府試算で、「乳製品は外国産、牛乳は北海道産に置き換わる」とされた。牛乳乳製品の本県産出額約80億円がゼロになることを意味する。農産物の関税撤廃をめぐり、TPP交渉が難航している中、にわかには信じ難いが、先行きを不安視する現場の声は根強い。

■やめられない

 「借金を返し終えた人は、後継者がいなければ辞めていく。残っているのは、辞めるに辞められない人ばかりだ」。寒河江市日田で酪農を営む有川正勝さん(68)がこう吐き捨てた。昭和30年代に乳牛1頭から始め、徐々に頭数を増やし現在は140頭を飼育する。長男が20年ほど前に家業を継いだ。今春、県立農業大学校(新庄市)を卒業予定の孫が後を継ぐことを決意。自分の歩いた道を子孫が追い掛ける。家族の強い結び付きを感じさせるが、頼もしい後継ぎへの期待感よりも、将来を案じる不安ばかりが正勝さんの口をつく。「北海道から安い牛乳が大量に入ってくれば、価格はどんどん下がる。今後どうなるのか」

 国内の生乳生産量は約750万トンで、このうち北海道産が約400万トンを占める。本県産は約7万5千トンと、市場全体の1%程度に当たる。TPPに関する政府試算によれば、バター、脱脂粉乳、チーズなどの乳製品は国産に比べ安価な外国産が市場を席巻。この影響で、国内競争力が高い北海道産が全て牛乳の状態で流通するようになり、「都府県の生産はほぼ消滅する」というシナリオに行き着く。それだけ影響が大きいとして、日本は乳製品をコメ、牛・豚肉などと同様に重要5項目に掲げ、関税維持を主張している。

■海外産に依存

 県産生乳の6割近くを扱う専門農協・県酪農業協同組合(山形市)の原田陽一組合長は「酪農家の無駄の見直し、経営努力は限界まで来ている」と言い切る。海外産飼料が年々高騰し、経営を圧迫。「国の統計によれば、1日1トン搾乳する都府県酪農家のもうけは6千円程度。ここから(牛舎の)電気代などが引かれる」と説明する。難局を乗り切る上で「輸入に依存する飼料を国産、地場産で賄えるよう国を挙げた仕組みづくりが必要だ」と指摘する。

 上山市下生居の佐藤利男さん(60)は乳牛、育成牛合わせて約100頭を手掛ける。自前の飼料を確保するため市内の転作田を借り受け。点在する土地を寄せ集めた計30ヘクタールで牧草を育てるが、牛に十分与えるだけの収量はない。必然的に海外飼料に頼らざるを得ないのが現状だ。

■誰が守るのか

 自宅敷地に牛舎がある環境で育ち、20歳で飼育頭数を増やし経営規模を広げた。佐藤さんは「(飼料となる)草を基本に考えないと経営は成り立たない。家族経営でできる飼育環境を整えるのが理想」と話す。家畜に餌を与え、耕す土地に堆肥を施し、再び恵みを得る。土地に根付いた循環農業の実践に酪農は最適と考えてきた。「誰が土地を守るのか。先が見えない」(「やまがた農新時代」取材班)

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