やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第9部・農と食と[3] グリーンツーリズム(下)

2014/10/19 12:03
農家レストラン「菜ぁ」を開いた小野寺美佐子さん(左)。築120年以上の古民家で、ゆったりと流れる時間も魅力だ=鶴岡市

 カボチャの煮物にナスとミョウガのごまみそあえ、庄内豚のしゃぶしゃぶ、ひとめぼれのごはん―。素朴ながら、有機栽培した米と野菜の“力”を生かした料理が並ぶ。鶴岡市の農家レストラン「菜(な)ぁ」。昨年、全国紙の「農園レストラン」のランキングで1位に輝いた。4歳の男の子と訪れた酒田市の夫妻は「うちの子は野菜をあまり食べない。だからこそ、いいものを食べさせたい。どれもおいしい」と納得の表情を見せた。

 自ら栽培した野菜や食材で料理を提供する農家レストラン。農村の暮らしに触れることができ、人気の店舗は県外からも人を呼び込む集客力を持つ。菜ぁの駐車場にも、大切にしてきた地元客のほか宮城、福島ナンバーの車が並んでいた。

 夫と有機農業を続けてきた小野寺美佐子さん(61)が店を開いた。先に開業した農家民宿「母家(おもや)」が13年目、菜ぁが10年目になる。

 「子どもに残してやれるのは丈夫な体しかない」と考えていた美佐子さんは、体をつくる食事を大切にしてきた。夏は野菜の揚げびたし、秋は柿の白あえと、四季折々に「体が食べたいと教えてくれる」旬の野菜を主役にする。みそ汁は化学調味料を使わず煮干しやこんぶでだしを取る。「普通」の食事だが、一手間を惜しまずにかけてきた。

 その料理を菜ぁで提供する。昨年からは長男紀允(のりまさ)さん(32)が店長となり献立も担当。指針になったのは体に染み込んだ母の味だ。この店が、地元の人に故郷の味を伝える場にもなればと思っている。最近、子ども連れが増えてきたのが何よりうれしい。次男貴紀さん(31)も、だだちゃ豆栽培で支える。小野寺家の手作りの味が、人々の心をつかんでいる。

立ち寄り施設として人を集める直売施設。道の駅「鳥海ふらっと」の鮮魚直売所は平日でも買い物客でにぎわう=遊佐町

 農家レストラン自体、珍しくない時代。選ばれる所は何が違うのだろうか。鶴岡市内で農家レストラン「菜ぁ」と農家民宿を営む小野寺美佐子さん(61)は「答えになるか分からないけど」と言いながら、「信念」と表現した。「種をまいて芽が出ると今も感動する。命の尊さを知ってほしい」。食の大切さと、自然の中での多様な経験によって命の尊さを伝えることができると信じ、農業体験も受け入れてきた。

 菜ぁの店長で長男の紀允さん(32)は、それぞれの「色」を放つ場所が増えれば、地域に入る人が増えると考える。近くには、菜ぁより先に同じ全国紙の農園レストランランキングで1位になった「知憩(ちけい)軒」もある。「ここにもあそこにもすてきな店があるとなれば、またこの地域に来てもらえる」

 ■見て感じる体験

 農業体験は、文字通り農作業をするのが一般的だが、紀允さんは「作業を見るだけでもいい」とする。コンバインでの稲刈りの見学は、大型機械を必要とする農業の現状が伝わる。農家が手際良く行う草むしりだってなかなかの職人芸だ。農業を見て感じる体験なら負担が少なく、参加しやすくなるのではないかと思っている。

 農作物などの直売所は1月1日現在で県内に180カ所ある。市価よりも安く新鮮とあって、地元客を中心に利用されている。

 農作物と鮮魚、両方の直売所を備えた遊佐町の道の駅「鳥海ふらっと」は昨年度217万人が訪れた。県内全観光施設・地域の中で最多の客数を誇る。秋田県境に位置し、7割が県外客。「野菜目当ての客が鮮魚をと、ついで買いする相乗効果もある」と施設側は分析する。

 魅力の一つが、鮮魚直売所で買った刺し身や焼きたての魚を食べられる食堂の存在。ごはんとみそ汁セットを購入すれば定食になる。旅の途中で立ち寄った観光客の「その場で食べたい」というニーズに応える。

 ■栽培作物の契約

 白鷹町の「どりいむ農園直売所」は鮮度にこだわる。農家230人が登録し、その日売れ残れば各自が持ち帰る。広告やイベント出展を通じて仙台圏にもPRし、集客する。農家と消費者が栽培作物を事前に相談・契約し収穫後に届ける会員制度も導入。会員は13年度で88人で、9割が首都圏など県外だ。お盆や正月に産地を訪ねる会員も現れ始めた。大滝重信チーフマネージャー(70)は「これも農作物の力」と笑った。

 魅力的な農家レストランや直売所は県内各地にある。県グリーン・ツーリズム推進協議会が施設を紹介するホームページを運営したり、スタンプラリーを実施したりしているものの、それ自体、認知度が高いとは言い難い。県全体で豊富な農業資源を生かし、県外から人を呼び込む仕組みが求められている。

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