やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第8部・DC検証[9] 売れる仕組みの構築

2014/9/28 11:50
「東の奥参り 鏡池特別納鏡」で小鏡と願い事を書いた紙を水鉢に納める女性。小鏡はのちに神の池として信仰を集めてきた鏡池(奥)に奉納される=鶴岡市・羽黒山山頂

 「山形の人は、おいしい米(素材)を作れば食べて(買って)もらえると思っている。でも現実は、旅行会社が素材を料理して提供するから観光客に食べてもらえる。その旅行会社の体力が弱り、料理ができなくなってきている今、どう売るのか考えなければならない」。3日、山形市内で開かれた観光戦略研修会。講師を務めた三重交通グループ観光販売システムズの小高直弘社長(52)の言葉に、県内の行政、観光関係者は聞き入った。

 山形デスティネーションキャンペーン(DC、6~9月)に合わせ、各地で観光素材の掘り起こしが行われた。山形DC推進協議会は昨年、ツアー造成に役立ててもらうため、旅行会社向けに観光素材をまとめた冊子を作成。35市町村の約1500件が盛り込まれたが、多くが「買いやすさ」の点で課題を残した。

 例えば旅行会社が松尾芭蕉の足跡をたどる行程をツアーに加える場合。現地での案内は誰がするのか、申込窓口はどこか、代金は何人でいくらなのか、どこに支払うのか、いつなら受け入れられるのか、さまざまな手続き・確認が必要だ。複数の施設、団体が関係する素材ではさらに煩雑になり、購入のハードルになる。

 こうした課題を解消し、申し込みさえすれば、現地での手配や精算を一括で請け負う仕組みを構築したのが「東の奥参り 鏡池特別納鏡」だ。「西の伊勢参り」に対する東の奥参りとして江戸庶民の憧れを集めていた出羽三山に着目。かつて、羽黒山の鏡池で行われていた鏡奉納を平成の世に復活させた特別参拝だ。DCに合わせて販売が始まった。ストーリー性とともに買いやすさが受け、多くの旅行会社がツアーに組み込んだ。

 羽黒山山頂(鶴岡市)で行われる「東の奥参り 鏡池特別納鏡」は、山伏の案内で杉木立の中を歩くところから始まる。鏡池脇の水鉢に小鏡と願い事を書いた紙を奉納。三神合祭殿で特別参拝し、精進料理を味わう。所要時間は2時間半。お札と記念品の鏡、オリジナル御朱印帳が付いて料金は1人7800円だ。毎日1人からでも体験できる。

 旅行会社の受付窓口は、県内の旅行会社65社が出資して設立した「山旅」(山形市)。現地手配、精算を全て行い「ランドオペレーター」と呼ばれる役割を果たす。個人客は今年は羽黒地区の「いでは文化記念館」が受け付けた。一連の仕組みは、村山地域7市7町で組織する「めでためでた♪花のやまがた観光圏」と鶴岡市が、県の協力を得て構築した。

 6月に受け入れを開始。参加者(11月までの予約を含む)は9月25日現在で約400人。価格だけを見れば決して安くない。山形デスティネーションキャンペーン(6~9月、DC)に合わせたテスト販売にもかかわらず、関係者は「大きな手応え」を感じていた。

山伏の案内で杉木立の中を歩く参拝客。「祈り」をキーワードに新たな観光ルートを構築する動きが出ている=鶴岡市・羽黒山山頂

 ■西の伊勢と連携

 人口減少社会を迎え、交流人口と消費を増やす観光は地域活性化に直結するとして、多くの自治体が振興策に取り組んでいる。地域資源を旅行会社に売り込む営業活動も直接手掛けるようになった。しかし「買いたいと思う旅行会社、消費者が現れても、素材を売る窓口がないのでは買ってもらえない」。同観光圏の事務局を務める山形市観光物産課の青木哲志課長補佐(52)は流通に乗せる工夫の重要性を強調する。

 「東の奥参り」は宣伝効果の高いDCを全国デビューの機会として生かした。本格展開を見据え、伊勢神宮の式年遷宮で1400万人超(2013年)の参拝者を記録した伊勢との連携に向けて動き出している。山形―名古屋の空路を使い「西の伊勢参り」と「東の奥参り」に相互に送客する事業について、間もなく大手旅行会社との協議に入る。大規模事業に発展できるのも「出羽三山参拝や鏡奉納の復活を単品の素材としてPRしたのではなく、旅行商品に仕立て、買いやすい仕組みを構築したからこそ」と関係者は言う。

 山形DCに合わせて「やまがた広域観光協議会」が企画した、山寺立石寺(山形市)で悪縁を切って慈恩寺(寒河江市)で若返り、若松寺(天童市)で良縁を結ぶ三寺参り。女性客を取り込んだこの企画も、旅行商品化とエージェント向けの窓口設置を目指す。

■ゴールデンルート

 東の奥参り全体を統括する観光事業企画のアイサイト(山形市)の馬場誠社長(54)は、東の奥参りと三寺参りについて、祈りをキーワードに結びたいと考える。「これにより庄内と村山がつながる。本県の『ゴールデンルート』に育てたい」。DCを機に全国から本県に「奥参り」に向かう人の流れを、再びつくろうとしている。

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