やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第6部・アウトドアツーリズム[3] 新たな楽しみ方、発信

2014/7/24 09:45
県内では開拓の余地が大きいシーカヤック。食などと組み合わせた観光誘客が期待される=鶴岡市・由良海岸付近

 ゆっくりとしたパドルの動きに反応し細長い艇が波を切って海面を滑る。太陽の光は薄雲を貫き、日本海に深い緑青の色彩を与えている。庄内海岸の奇岩や断崖を間近に見ながらシーカヤックは進む。

 カヌーは自然との一体感を得られるアウトドアスポーツの、定番の一つ。川下り用など多種あるがシーカヤックは海でこぐことに特化した構造。本県では酒田港を巡るツアーや、酒田から飛島まで横断する熟練者向けイベントなどが行われているが、愛好者はまだ少なく開拓の余地が大きい分野だ。

 日本体育協会公認カヌーコーチの資格を持ち5年前からシーカヤックなどのレッスン、ツアーを手掛ける漕快亭の丹野浩之代表(46)=山形市肴町3丁目=は「山形の海でカヤックはほとんど見かけない」と話す。ごくまれに擦れ違うようになったのは2年ほど前からといい「東北の日本海側は透明度が高くてきれい。知る人ぞ知るエリア」と話す。

 東京都稲城市、会社員五味聡さん(54)は主に伊豆で楽しんでいたが、「一度は日本海をこいでみたい」と庄内を訪れ、山形の海のリピーターとなった。数ある海岸の中で山形に足を向ける理由は「酒も食べ物もおいしいから」。

 丹野代表は「首都圏から人を呼ぶにはシーカヤックの力だけでは弱い」と認める。その一方で「登山や食などほかの要素と組み合わせて山形を楽しむツールとしての力は大きい」と強調する。「一度体験すれば魅力を分かってもらえる」として、ツアーは初心者への配慮を重視。陸側から近づけない砂浜に上陸してバーベキューをしたり、シュノーケリングで魚を観察したりと多様な楽しみを組み合わせる。「敷居を下げることができれば、どんどん広がっていくはずだ」

 地元の知名度はまだ低いものの、県内の大自然を舞台にしたスポーツやレジャーは、首都圏の人たちを中心に人気が高まりつつある。

 ハイキングコースや登山道、林道などアップダウンのある自然の中のルートを走るトレイルランニング(トレラン)。愛好者の増加に伴って近年、全国各地で年間200近い大会が開かれている。千人近い愛好者が集う大会もあり、「山岳リゾートとしての魅力発信」といった効果も注目されている。

スキー場に設けられたコースを駆け上がる参加者。競技人口の増加を受け、全国各地でトレイルランニングの大会が開かれている=6月15日、山形市蔵王温泉

■勝手連的に応援

 今年6月、山形市の蔵王温泉で初の「ヒュッテ・ヤレン杯蔵王温泉国際トレイルランニング大会」が開かれた。主催団体は東京都のNPO法人「元気・まちネット」。代表の矢口正武さん(67)=戸沢村出身=は、蔵王温泉で旧白洲山荘「ヒュッテ・ヤレン」の修復・保存にも取り組んでいる。

 全国的にスキー場が衰退する中、活性化のためにできることはないか―。山岳リゾートを抱える各地で大会に携わってきた矢口さんらが「勝手連的に蔵王を応援したい」と、手弁当で協賛金集めや運営ボランティア確保などに努め、開催にこぎ着けた。

 コースは蔵王体育館を発着点に、お釜近くまで走る25キロ(標高差千メートル)、3人1組のリレー(計13キロ)、親子ペア(5キロ)の3部。約200人の参加者のうち県内は6割で、3割が仙台圏、残り1割が首都圏などからだった。

 蔵王は、冬季以外は遊休地となるスキー場や標高差がある登山コースなども備え、トレランの「適地」とも言える。温泉などの観光資源にも恵まれ、何よりも全国的な知名度がある。半面、スキー人口の減少などに伴い、苦戦を強いられている。矢口さんが大会開催時期を6月にした理由の一つは、スキーと避暑の端境期は温泉街の観光客数が一段落し、地元の協力が得やすいからだ。

■自然環境に配慮

 新しいスポーツとして脚光を浴びるトレランだが、逆風も吹き始めている。多くの人が山を走れば自然環境への影響は避けられない。「スポーツ関連企業やイベント会社が主催する大会は、たくさん人が集まらなければもうからない。その分、自然環境への配慮に欠ける」と矢口さん。

 矢口さんらは地元の山岳インストラクターと入念に下見し、高山植物などへの影響を極力避けてコースを設定。一般登山客への配慮も怠らなかった。「地元を知る人が携わることで、より魅力的な大会運営ができる」。アウトドアスポーツが観光誘客に果たす可能性をそう語った。

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