鳥海山トレッキングは庄内の有力な観光資源の一つだ。しかし、以前はインターネットで「夏」「トレッキング」のキーワードで検索しても庄内の情報は上位に表示されなかった。ホームページに掲載してもアクセスしてもらえなければ、ないも同然。庄内2市3町と戸沢村などで組織する庄内観光コンベンション協会は、多くの地域が直面しているこの問題の解決に取り組んだ。
まずはターゲットを絞り込んだ。庄内が他地域に勝てる素材として選んだ巡礼、トレッキング、美食巡り、写真・スケッチの4分野に興味のある人をサイトに誘導することを重視。検索サイトで関連ワードを打ち込むと協会サイトが広告としてトップページに表示される「リスティング広告」を活用した。
料金は、指定したワードで検索した人が、リスティング広告から協会サイトにアクセスした数に応じて増える。ワードによって料金が決まっており、組み合わせを工夫すれば1クリック10~30円程度で対応できる。ネットユーザーの居住地や時期を限定することで広告費を抑えたり、上限額を設けたりすることも可能だ。
この広告を首都圏に照準を合わせて2013年5月に導入。この月5万4400だった協会サイトの閲覧総数は、8月には1・7倍の9万3500に増加した。13年度末までにリスティング広告に表示された回数は約715万7千回。うち約5万3千回を協会サイトに誘導できた。この数はサイト総閲覧数の3割に当たる。この間の広告費は計73万円。以前はアクセス数自体把握していなかったが、数値による検証も可能になった。
インターネットで特定のキーワードを入力して検索した際、トップページに表示されるリスティング広告。庄内観光コンベンション協会が活用するこの手法は、何より、庄内の観光素材に興味を持つ人へピンポイントで売り込めるのがメリットだ。「ホームページを作るだけでは意味がなく、何を、誰に伝えるのかが重要」。協会員で湯野浜温泉観光協会長でもある阿部公和・亀や社長(44)は語る。
リスティング広告も、予算のある地域が有利だろう。しかし、ターゲットを絞り込むことで予算を抑えながら優位に立てる。広域連携で取り組めばさらに負担を分散できる。地方に向いている戦術といえる。
■利用者目線で
協会は、この仕組みで協会サイトに誘導した人を逃さないよう、利用者目線で「使いやすく、ほしい情報を得られるサイト」に徹底してこだわった。
まずは目当ての情報にすぐたどり着く工夫。巡礼で検索してクリックした場合は巡礼のページに、トレッキングで検索した人はトレッキングのページに直接つながるようにした。トップページに誘導してしまうと、その中から目当ての情報を探さなければならないのが手間で、サイトを離れる可能性が高まるからだ。
掲載内容も改善した。例えばグルメ情報。すしや洋食、ラーメンなど庄内には旅の目的になり得る食が数多い。行政や団体が作成したサイトは、その食の存在自体や店舗概要の紹介にとどまるケースがほとんど。協会は、各店舗の一押しのメニューや価格、店舗の外観なども写真付きで掲載。食や温泉、自然など分野別にアクセス数順で上から表示される。
■提携で機能追加
さらに、人気宿泊予約サイトや大手旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」とタイアップし、宿泊予約や評価に関する情報収集もサイト内からできるようにした。いずれも提携によって協会の運営コストを掛けずに機能を追加できた。
協会の事務局は県庄内総合支庁観光振興室内。「行政が作るサイトは“使えない”のが一般的だったが、これだけのものにしたとは驚きだ」。協会の取り組みに注目してきた村山地域の旅館経営者はうなった。
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