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やまがた観光復興元年

第3部・変貌する温泉地[1] 危機に直面「赤倉」

2014/3/28 14:21
最上町の前森高原で開かれた灯々祭。雪灯籠の明かりが円形に浮かび上がり、幻想的な雰囲気を演出する。地元では観光誘客にさまざまなイベントを仕掛けている=3月16日

 2004年2月に最上町赤倉温泉スキー場などで繰り広げられた山形もがみ国体。その活況ぶりは今でも温泉内で語りぐさとなっている。各旅館は選手、大会役員で満員となり、温泉街は人であふれた。規模は決して大きくないが、老舗旅館の一つがコンベンションホールを備えていたため各種全国大会の招致が可能だった。まとまった集客は、その都度、温泉街全体を潤した。

 昨年4月、温泉街に激震が走った。その老舗旅館「あべ旅館」の倒産だ。「赤倉温泉を象徴する存在。イメージダウンにつながる恐れがある」。旧経営陣が退いた後、営業を引き継いだのは仙台市内の業者だった。しかし、建物を管理する破産管財人と賃料の支払いなどをめぐって折り合いがつかず、わずか3カ月で撤退。マイナスイメージに拍車を掛けた。

 「このまま手をこまねいていられない」―。昨年8月、赤倉温泉全体の活性化を目指し、旅館や飲食店、ガソリンスタンドの経営者らが振興協議会を立ち上げた。第1弾として昨年12月に初めて「そばまつり」を開催。今月16日には、2千本のろうそくを雪原にともす灯々祭にも同温泉街から多くの関係者が参加し、運営をサポートした。「温泉街が衰退すれば、地域が廃れる」。官民一体となり、危機的な状況を打破するための歩みが始まっている。

 長く本県の観光をけん引してきた温泉街が変貌を迫られている。団体から個人に旅行形態はシフトし、ニーズが多様化する中、温泉を目的とした旅行者が減少しているからだ。山形新聞、山形放送の8大事業「やまがた観光復興元年」第3部は、本県観光の主軸であり続ける温泉地や核となる旅館の変化をたどりながら、直面する課題、新たな戦略について考える。

 かつて最上町の赤倉温泉を訪れる宿泊客の多くが冬場のスキー客だった。最近は若者を中心にしたウインタースポーツ離れの影響で冬期間の宿泊数が激減。生き残りをかけ、一年を通した集客の必要性がこれまで以上に高まっている。“救世主”として地元で期待が高まっているのが町内の豊富な農産物だ。

最上町産のソバにこだわった加工品を一堂にそろえた「新そばまつり」。赤倉温泉では町内産の農産物を生かした新たな誘客企画を相次いで打ち出している=2013年12月8日

 ■良質な農産物

 6月から県内で繰り広げられるデスティネーションキャンペーン(DC)に合わせ、旅館関係者は昨年、食を前面にした誘客企画を相次いで打ち出した。町内には町を代表する野菜に成長したアスパラガスや最上伝承野菜の赤にんにく、最上但馬牛、タラノメ、フキノトウ、雪ウルイなど良質な農産物が豊富だ。しかし、こうした食材を使った料理を提供する場が少なかった。

 「新たな誘客の素材として原点に返り地域の良さを見つめ直した」と語るのは赤倉温泉観光協会旅館部会の大沢康浩会長(49)。夏にはアスパラガスやアユなど旬の食材をふんだんに使い最上町の夏を表現した新作弁当を発表した。

 協会に加盟する7旅館で8月1日から1カ月間、日帰り温泉とセットで1人3千円で提供。共通メニューとして一体感を醸成し、まずは「赤倉温泉」の名前を全国に発信することに力点を置いた。

 12月には近年、町を挙げて栽培普及に取り組んでいるソバ「最上早生(わせ)」だけを使った新そばまつりを初めて開催した。参加したどの旅館経営者も「評判は上々だった。そばは人を引きつける力が強い。冬だけでなく夏もそばを生かした新たなイベントを仕掛けたい」と手応えを感じている。

 ■ニーズ見極め

 「1年の売り上げのほとんどを冬場に稼ぐ」と評されたこともあったが、「食」を誘客の核としたことで、通年でさまざまな対策を打てるようになった。ただ、温泉街の誰もが「これで十分」と満足しているわけではない。客が温泉街に求める要素は多様化しており、ニーズの見極めが非常に難しい状況にあるからだ。「どの客層をターゲットとするべきか」。試行錯誤は続く。

 核となる「あべ旅館」の倒産から間もなく1年。大沢会長は強調する。「小さな温泉街の各旅館は運命共同体だと思う。ともに支え合い、その結果、温泉街全体の魅力を高めていかなければお客さんは来てくれない」

最上町産ソバにこだわった加工品をそろえた「新そばまつり」。赤倉温泉では町内産農産物を生かした誘客企画を次々に打ち出している=2013年12月8日、お湯トピアもがみ

 【メモ】県の調査によると、県内温泉施設への宿泊者はピーク時の1992年度に450万人だったが、2011年度は241万人とほぼ半減。温泉宿泊施設も11年度は358カ所で1992年度の4分の3に減った。入湯税の収入額は、ピークが96年度の7億8910万円。2012年度は5億9140万円まで落ち込んだ。同年度で隣県と比較すると、宮城県は5億2450万円、乳頭温泉など知名度の高い温泉地のある秋田県が6億4690万円、首都圏に近い福島県が7億4860万円。

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