(211)お金じゃないよ!人間だよ!~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(211)お金じゃないよ!人間だよ!

2022/12/22 08:47

 舞台「老後の資金がありません」の稽古が始まった。今年最後の仕事が老後の資金を考えるコメディーとなった。1年半前に上演し、好評を博したことから再演が決まった。コロナ禍の憂鬱(ゆううつ)を吹き飛ばす、目に見えないものの大切さを表現した舞台。お金じゃないよ! 人間だよ!と、笑って泣いて楽しめる作品である。

 中盤に義父が亡くなり、葬儀屋から棺(ひつぎ)や祭壇の値段を聞いて愕然(がくぜん)とするが、結局大金を払って老後のための貯金がなくなってしまうというシーンがある。

 今年、父を亡くし、弟と言い争いながら棺や戒名を決めた現実を思い出す。人ごとと思って笑いながら稽古をしていた一昨年と状況が変わり、切実な問題としてリアリティーが出てきた。

 けれど、世界中で紛争が絶えず、暮らす家もない人々のことを考えると、家族のことで真剣に悩み、大げんかのできる幸せを思う。自己責任が強調され、人と人とのつながりを断つような政策に乗っかってはなるまい。

 私たち東北人は寒さの中、みんなで手を取り合って支え合い、生きてきた歴史がある。弱肉強食の世界の動向にのまれてはならない。「絆」を大切に、目に見えない「愛情」や「心」を大事にして新年を迎えたいと願うものである。

 先日、沢田研二さん主演の映画「土を喰らう十二ヵ月」を見たが、雪深い白馬の風景が故郷の山形と重なり涙がこぼれる。鳥の声に遊び回る小動物、一斉に振り向くカモシカ…。

 コゴミやタラの芽の美しい黄緑色。すべてが故郷の思い出に重なる。そして1人暮らしの主人公が料理をする手。里芋を洗ったり、米を炊いたりするその手が父にそっくりなのだ。来ている服も父に似ている。ジュリーが、今年亡くなった父とこんなにも重なるなんて。父の愛情と故郷の美しさを思い出し、すぐにでも山形に帰って母親に会いたいと気がせくが、仕事があり帰れない。

 故郷の友人や親せきたちの笑顔が浮かぶ。両親の若い顔、少年の弟が手を振る姿が目に浮かぶ。故郷があって幸せである。私には温かい思い出がある。締め切りの原稿に追われ、仕事に追われ、慌ただしい日々でも故郷という大きな救いがあると、「映画」が思い出させてくれたのだった。

 私も15年前から構想している山形ロケの映画を早く撮影したいと、さらに強く思った。心の底にある大きな故郷。四季の美しさ。ユーモアにあふれるエピソードを折り込み、優しく激しい映画を作りたいと思う。

 マスクを掛けて消毒しながらの厳しい稽古だが、みんなで大笑いしながら楽しく取り組んでいる。

 初演は高畑淳子さんが演じた私の親友役は、室井滋さんに変わった。全く違った個性の、全く違った演技と性格の、これまた大いに面白く豊かな親友である。今日も稽古場でつい笑って演技ができなくなるほど愉快だ。室井さんは稽古場で私の健康も気遣ってくれるような知的で優しい方だ。

 コロナが収まり、平和な世界になることを祈り、アメリカ、ロシア、中国という大国の間で今後の日本がどんな選択を迫られるのか? 用心しながら新しい年を迎えましょう。

 「老後の資金がありません」の稽古をしながら、日本が戦争に巻き込まれないように、みんなが幸せに新しい年を迎えられるように祈ります。そして元日が誕生日の母ちゃんが長生きしますように!

 皆さま、良いお年をお迎えください。

(俳優・劇作家、山形市出身)

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