渡辺えりの ちょっとブレーク

(209)思い出の劇場、思い込め演出

2022/10/31 09:39

 22日のプレビュー公演で、舞台「ぼくらが非情の大河をくだる時」の幕が開いた。私は演出だけで、役者としての出演はないが、劇場の演出席で久しぶりに緊張に震えた。

 17歳の時に山形で読んで興奮した戯曲の演出である。自作ではない作品の演出は久しぶりで、今回の出演者のほとんどが初顔合わせ。しかもオーディションで選考したメンバーが21人。バンドネオン奏者の鈴木崇朗さん、タンゴダンサーのすみれ&玉井も出演する異色のコラボである。

 オーディションメンバーの特技を生かした場面を考えて挿入し、清水邦夫さんの別の作品から抜粋したせりふも各所に入れた。初演の出演者は全員男性だったが、半数以上女性を登場させた。

 戯曲のト書きに「ギターの音」と書かれていた場面にバンドネオンを登場させて、いつもタンゴのコンサートでご一緒している鈴木さんに生演奏と作曲をしてもらった。オリジナル曲には私が詩を作り、劇中に入れさせていただいた。

 「ぼくらが非情の大河をくだる時」は、フランスの詩人アルチュール・ランボーの「酔いどれ船」という詩の出だし部分を盛り込んだ。ランボーが10代で書いたシュールな内容で、既成概念にとらわれない新しい詩を作るのだという決意を表明したような過激な作品なのである。当時、海を見たことのなかった田舎の少年のランボーが大海原を航海する船の詩を書き、新潟県出身の清水さんが大いに共鳴し、心情を重ねたであろうことを想定し、ラストに登場人物たちで難波船に乗り、オリジナル曲を歌うシーンを入れた。この新曲がとても良い歌で、聴いていると泣けてくる。

 3年前に別役実さんの舞台「消えなさいローラ」を演出した時も自作の歌のシーンを入れてしまったが、別役さんが生きていたらきっと笑って許してくれたと思う。そして、清水さんもこの歌を聴いたら喜んでくれるはずだと思う。

「風のない日は漂うばかり 帆のない小舟 木の葉のように この川の先には海がある 漂いながら見る夢は 大海原に漕(こ)ぎ出す友の歌う声笑う声 いつか風が吹き いつか光満ち 風が吹く その風に身を任せ 眠るように行こう 木の葉のように行こう 眠るように歌おう 果てなき旅の歌 いつか風が吹く 大海原を漂う舟よ いつか風が吹く」

 この作品のために私が作詞した歌だ。鈴木さんの作曲も素晴らしく、50年前の戯曲が現代によみがえり、炸裂(さくれつ)した場面となった。

 出だしとラストにランボーの「酔いどれ船」のフランス語の朗読も入れ、清水さんの演劇に対する願いというか、祈りのような部分も込めたつもりである。

 オーディションメンバーも、すさまじい早替えと立ち回り、歌と踊りで出ずっぱり。主演の3人も大奮闘で、お客さまは大興奮。カーテンコールで全員が引っ込んだ後も拍手が鳴りやまず、急きょ舞台上に戻り、再度あいさつしてもらうことになった。

 今年、仕事を定年退職した後にオーディションを受けて合格した男性は、63歳で初舞台を踏んだ。稽古場ではどんどん演技が上達していき、ベテランたちの中で活躍してくれた。「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったものだ。

 27年ぶりの新宿シアタートップス。37年前に初めてこの劇場で上演した「カデンツァ」の時は沢田研二さんが見に来てくださり、ひどく緊張したことを思い出した。千秋楽だったので、沢田さんにもビールを渡してみんなで乾杯した。そんな思い出深い劇場で67歳の今、50年前に感動した作品を演出できる喜びを実感している。30日に追加公演も行ったが、コロナ禍なので全日完売でも大赤字。頑張るしかない。

(俳優・劇作家、山形市出身)

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