渡辺えりの ちょっとブレーク

(194)平和の祭典と老後の暮らし

2021/7/31 09:42

 生きているうちに2度もオリンピックを体験するとは思わず、しかも、4年前、こういった形のオリンピックを誰が予想できたであろうか?

 山形に住んでいる頃、オリンピックはテレビで見るのが当たり前だった。今は東京に住んでいるのに、すぐ近くのオリンピック会場に行けないという不思議。元々、東日本大震災の復興が先のはずだと思い、一部の人間だけが利益にあずかるようなオリンピックには反対だったが、福島の高校生の合唱を聞き、東北の子供たちの聖火を見て、大坂なおみ選手の潤んだ瞳を見たら泣いてしまった。スポーツやアートには何の罪もなく、人々が生きる支えなのだと、強く思った。

 今「老後の資金がありません」という芝居の稽古中である。高畑淳子さんとの初共演で、歌って踊っての楽しい作品だ。毎日消毒をし、マスクを着け、透明の幕で仕切っての不自由な稽古を頑張っている。私の息子役と生け花教室の先生役がジャニーズの若者なのだが、いまだに顔を見たことがない。息子の顔も知らずに稽古が進んでいくのだ。

 高畑さんは本当に面白い方で、稽古直前までおしゃべりして大笑いしている。役が私より二つ年下で敬語を使うという設定なため、普段から敬語を使っているのもおかしい。役になりきっているのだ。

 高畑さんとは同世代で同じ演劇や映画に触れ、同じ本を読み、同じテレビを見て育ってきた。浪費せず、コツコツ頑張ってきたのも同じだろう。しかし、高畑さんは貯蓄がないと生きられないと思う派。私はこれから何とかしなくては、何とかなるだろうと思う派。互いの母親も同い年で、家計簿を付け、節約し、きちんとしていた性格だったのも似ている。

 高畑さんにはお子さんが2人いて、同じ家に同居しているのがうらやましい。娘さんにラップのシーンを相談したことなどを聞くと、自分が早く結婚して子供をつくっていればと本当に後悔している。私が24歳の時、結婚を反対したのは山形の父親だった。あの時に親の言うことを聞かなければ、子供を持てたかもしれないと時々思う。

 今回の舞台「老後の資金がありません」は、娘の結婚式と義父の葬式で900万円も使い、預金が300万円に減ってしまった50代の主婦の話。夫と妻の2人ともリストラに合い、夫婦であと300万円でどうやって暮らしたらいいのか? 考える中、さまざまな人間関係の問題点や価値観の相違が浮き彫りになってくる。

 最初はすてきだと思っていた夫も頼りなく、子供たちにも遠慮して、居場所がないと感じる妻。ついつい人の目を気にして常識を越えられず、窮地に陥っていく主婦の姿は人ごとではない。私自身にもこういうことがあるかもしれないと思わせるシーンの続出である。

 やはり日本はまだまだ男性社会である。家のやりくりも家事も、すべて主婦が担わせられている家庭が多いのではないだろうか。主婦だけが我慢して切り詰めて、他の家族は何も知らずにのんびり暮らしている場合もあるのではないだろうか?

 今回のオリンピックでも女性に対する蔑視発言、弱者に対する差別や思いやりのない行為が明るみに出た。平和への祈りの祭典を再考し、良い方向へと改革しなければならない。みんなが思ったに違いない。

 しかし、コロナ禍でありながら全世界からこれだけ多くの選手たちが集う映像を見ていると、「世界平和は夢ではないのではないか」との希望も生まれる。パレスチナの選手団の行進を見て、昔から大国の犠牲になってきたさまざまな国のことを思った。

 老後の資金によって大きな格差が生まれる理不尽を何とかできないだろうか。介護士がきちんとした収入を得て、年寄りが介護施設にも安く入居できる仕組みを作れないのだろうか。

(俳優・劇作家、山形市出身)

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