(4)人の笑顔が見たくて~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(4)人の笑顔が見たくて

2005/4/27 18:22

 「コミュニケーションズ」の幕が無事に下りた。4月8日から24日まで、東京・初台の新国立劇場で上演された舞台である。

 今回の私の仕事は構成と演出である。普段やっている1本の戯曲の上演ではなく、世代の違う劇作家によるコント集の上演で、作家も出演者も初めてコントに挑戦するという面白い試みである。

 昨年から構成を考え、コントが書き上がるのを待っていた。出演してくださる方々はすべて世代の違う役者たち。10代から70代までの信頼できる役者に依頼した。10代、20代の若者はオーディションで決めたが、約200人の中から選ばれた男優は、なんと山形の白鷹町出身の矢崎広君。17歳で、中学を卒業してすぐにどうしても役者になりたくて東京に出てきたらしい。若いのにしっかりしていて、穢(けが)れのないさわやかな瞳(ひとみ)が気に入った。きびしい演出に耐え抜いて、立派に演技してくれた。

 私もコントの演出は初めてだが、「笑い」を生み出す作業は子供のころから大好きなのでとても楽しみであった。稽古(けいこ)も夕方までで終わりにして、後はみんなで酒でも飲もう、と軽い考えでいたのだが、現実はきびしかった。毎日夜の9時までやっても足りないくらいで、まるで短編20本の芝居の稽古をしているようだった。

 自分が子供のころテレビで見て好きだった花菱アチャコや、バスター・キートン、マルクス兄弟のドタバタや、てんぷくトリオ、コント55号などを想像していたのは大間違いで、実際に集まったのは、今の時代を映すようなシビアでブラックなコントが多かったのである。最後に人が死んでしまうような、ある意味シリアスで皮肉なコントである。緻密(ちみつ)な演出と稽古が必要な作品ばかりであったのである。出演者の9人もほぼ出ずっぱりで、精神的にも肉体的にも重労働である。私も構成と繋(つな)ぎのコントを考えるのに、徹夜続きの毎日だった。しかし、役者さんたちは最後まであきらめず私を信頼してくれ、ハードな稽古にも耐え続け、お客さまが大笑いする愉快な舞台に出来上がったのだった。似たコントは1本もなく、笑いの種類もすべて違う。涙を流して大笑いするお客もいれば、クスクス笑いの客もいる。

 思えば、私は人の笑顔が見たくて芝居を始めたようなものである。だから今回私が考えたテーマ曲は「君微笑めば」というジャズである。ビリー・ホリデイが歌ったその歌を日本語にして、役者全員が演奏して歌うシーンをつくった。劇場の中に古い劇場を造り、その劇場が取り壊されてしまう最後の日という設定の構成にした。

 近未来のある日の出来事である。50年続いた「コミュニケーション一座」という喜劇集団の解散公演の千秋楽。戦争が始まり、演劇が消え、笑いも消えてしまうという、来てはならない未来の物語。平均年齢80歳の役者たちは公演のたびにいなくなりスタッフが代役しているうちに、とうとう最後の日には役者が全員スタッフになってしまったという設定なのである。つまり、音響、照明、道具作りをやりながらあわただしく出演しているスタッフの情熱を演じることで、舞台の夢や笑いを求め続ける心のたいせつさをコントと同時に現出したかったのである。こういう時代だからこそ考えた演出プランであった。客席でお客さまの笑い声を聞いていると、ほんとに幸せな気分になる。

(劇作家・女優、山形市出身)

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