(18)うれしかった山形公演~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(18)うれしかった山形公演

2006/6/23 18:06

 2カ月にわたる全国ツアーの折り返し地点である6月18日、山形県民会館で舞台「おかしな二人」の公演が無事終わった。県民会館の舞台に立ったのは、山形西高の演劇部時代に演じたメーテルリンクの「青い鳥」と寺山修司の「犬神」の2本で、プロになってからは初めて。しかも、私が上京を決意した舞台「ガラスの動物園」を見た同じ劇場なのである。

 懐かしい楽屋に入ると、偶然にも私の楽屋が、私が高校1年の時に先輩と一緒にお邪魔した「ガラスの動物園」の長岡輝子さんの楽屋と同じだった。そして、長岡さんが座っておられた場所と同じところに私のメーク道具が置いてある。感無量であった。小学校と中学校の恩師たちを招待したら、皆さんいらしていただき、おいしい差し入れもたくさんいただいた。小学校、中学校の親友たち、高校の演劇部の仲間たちにも久しぶりに会い、終演後に食事をしながら思い出話に花が咲いた。そして、あの日、長岡さんの話を一緒に聞いた1年上の先輩にも二十数年ぶりに会うことができたのだ。

 公演の前日は出演者全員を実家に招き、母の手料理をごちそうした。浅丘ルリ子さんは私の両親に会うと、涙ぐんでいらした。亡くなったご両親のことを思い出されたらしい。手料理にも喜んでくださり、母に、東京から1カ月以上もトランクに忍ばせていたカーディガンを贈ってくださった。そして、浅丘さん手作りのブレスレッドもいただいた。「本当に、気さくで優しい方だなあ」と母は大感激である。

 カーテンコールで浅丘さんが私にささやいた。「えり子さん泣かないの?」。全国を回っている間、私が浅丘さんに「山形県民会館でやったら、あたし、きっと泣くと思う」といつも言っていたからである。実際にはみんなが喜んでくださったので、ものすごくうれしくなって、泣くというよりはしゃいでしまったのだった。

 出番の前はいつも以上に緊張してしまい、共演者たちがみんな「えりちゃんの緊張が移っちゃったよ」とからかわれた。2幕まで出番のない深沢敦さんも袖に来て、「緊張して楽屋にいられない」と言いに来たほどであった。実際、舞台上で切ってはいけない電話を切ってしまったりと、確かに緊張した。最後の歌は恩師たちに聞かせようと、いつもより声を張り上げて朗々と歌い上げた。

 古里とはなんて優しい、良いところだろう。カーテンコールでそう思った。また古里で公演できる日があればと祈っている。私の主宰する劇団宇宙堂の公演も、いつか山形のみなさんに見ていただきたい。来年再演になる「ミザリー」も山形で上演できればと願っている。今回は大いに笑っていただき、本当にありがとうございました。友人たちは「えりちゃんよくやった」と泣いてくれたそうである。

 この公演のためにいろいろと協力し、応援してくださったすべての皆さまに感謝しています。7月16日の東京の千秋楽まで公演が続くので、まだまだ気は抜けないが、古里の優しさに触れ、充電できたような気がする。これで、あと1カ月がんばれそうだ。

(劇作家・女優、山形市出身)

[PR]
[PR]