(34)「渡辺えり」という新しい名前~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(34)「渡辺えり」という新しい名前

2007/10/17 17:47

 皆さん驚かれたと思いますが、つい先日改名してしまったんです。お騒がせしてすみません。

 小日向文世さんとの2人芝居「ミザリー」の稽古(けいこ)の最中、あまりにも体調不全が続き、いろいろな医者に行っても原因はよく分からない。突然のどの痛みがものすごく、夜も眠れぬまま耳鼻咽喉(いんこう)科に行ったら、へんとう周囲膿腫(のうしゅ)だと言われ、即、メスでへんとうを切られ、注射器でうみを吸い取られた。その痛みといったら! 男の方なら泣き叫んでいたことだと思う。

 手術をしても痛みは消えず、翌日と翌々日が連休だったため、救急病院で点滴を受けた。普通は1週間くらい入院して絶対安静の治療をする病気らしいが、稽古中のためそれはできず、点滴を打ちながら稽古場に通っていたちょうどその時、美輪明宏さんから電話がかかってきたのである。私の若いころからの恩師である美輪さんが電話をくださることはめったにない。しかも午前中の電話である。

 「渡辺えり子」は画数が悪く、とても苦労する名前であること。若いころなら、あえて苦行をするために付けてもいい名前だが、もう50を過ぎたのだから、落ち着いて暮らしたほうが良い。今の病気が治っても、また新しい病気にかかってしまう名前である。というような内容の話をしてくださったのである。そういえば、今年の春ごろから精神的にも肉体的にも厳しいことが立て続けで、今も、とにかくのどの痛みで生きた心地がしない日々であった。マネジャーや劇団員に相談しても、反対する人はいない。山形の両親と弟にも相談した。弟は「何か若返ったようでいいんじゃないの?」と言う。

 役者の時だけ変えればいいのかと思って美輪さんに確認の電話を入れたら、仕事は全部「渡辺えり」にしなくてはならないという。「えり子」と呼ばれて返事してもいけないらしい。小学生からの友人たちはみんな「えりちゃん」と呼んでくれるし、高校からの友人は「ジュリコ」というあだ名で呼ぶ。改名して困っているのは私を「えり子さん」と呼ぶ劇団員たちと事務所のマネジャーたちである。今のところ、誰も私を新しい下の名前で呼んでくれない。「渡辺えり」なんだか柔らかで優しそうな名前じゃありませんか?

 もちろん「渡辺えり子」だって悪い名前だとは思っていません。この名前で作ってきた数々の作品とそれを応援してくださった皆さまに感謝しています。父が、昔のラジオドラマ「えり子とともに」を毎日聴いて、主人公の「えり子」のような明るくて知的な女性に育つよう付けてくれた「えり子」という名前も大好きです。

 まさかこの年になってから改名するなんて! 前より優しく強く、健康になっているはずの私の舞台を見にいらしてくださいね。山形市民会館は25日、川西町フレンドリープラザは27日。大笑いしながら恐怖を感じる作品「ミザリー」を上演します。また友人たちや恩師たちに会えるのがとてもうれしい。そして紅葉のころに帰るのは本当に久しぶりなので、河原での芋煮会を楽しむつもりです。

(劇作家・女優、山形市出身)

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