(51)故郷の春、温かい人々~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(51)故郷の春、温かい人々

2009/3/30 17:21

 19日に遊佐町、22日は山形市で講演があった。遊佐町の講演が夜だったので1泊し、鶴岡市の加茂水族館に初めて行った。実はこれが前から楽しみだったのだ。オワンクラゲを見てみたいという単純な好奇心もあったし、小さな水族館が全世界でも有名なクラゲ水族館に生まれ変わり、20万人近い集客を誇っているということにも大いに興味があった。

 出かけてみてその人気の理由が分かった。地下の水槽で泳ぐクラゲたちの美しさとその豊富な種類。そして、若い係員たちの解説のうまさ。芸をするラッコやアシカたちに対する愛情溢(あふ)れる接し方。またクラゲの解説をしていた若い女性がアシカの調教師を兼ねていたりと、館で働く人たちが全体のことを把握し、家族的な雰囲気で仕事をしているということである。

 餌の魚をあげさえすれば難しい芸も楽しげにやってしまうアシカのゆずちゃんに感激し、悩み多き自分と比較し、人間もこういうふうに単純に仕事をこなすことはできまいか?と嫉妬(しっと)を覚えたりもした。そして、水槽の前で時を忘れて過ごすことのできるクラゲの完璧(かんぺき)な美しさに参った。副館長にクラゲの研究室に案内していただき、顕微鏡で赤ちゃんクラゲを見せてもらった。子供のころにこういう体験ができたら人生が変わっていただろうと思うほど面白い体験だった。

 山形市での講演は、できたばかりの「シベールアリーナ」が会場。高校時代にバンドを組んでいた友人と、弟の同級生だった方にお願いしてピアノとギターで伴奏してもらい、講演の後、歌を4曲披露した。前日の土曜夜にテレビの生番組があるため、講演当日の午後1時にアリーナ着。1時半の開場まで約20分ほどの打ち合わせしかなかったが、何とか無事に歌うことができ、おかげさまで大好評だった。

 この日のためにグランドピアノを購入してくださっていたのには大いに感激した。隣の建物のホールにあるピアノを運び込むのにお金がかかり過ぎて、10回移動することを考えたら購入した方が安いという計算だったそうである。てきぱきと事が運ぶのが凄(すご)いと思った。

 今年8月7日に七日町で花笠を踊るためにダイエットを始め、40日で4キロほど体重が落ちた。テレビ番組の依頼があった時出演を決意したのは、放映されれば責任が生じるので本当に痩(や)せられるのではないか?と考えたからだった。食べることが大好きな私にとって、食欲がなくなってしまうダイエットはちょっと悲しかったが、好物を食べることがダイエットに繋(つな)がることを発見したのは収穫だった。お付き合いで飲んだり食べたりしてしまう習慣こそが健康を害するのである。

 アリーナに隣接したイタリアンレストランで、花笠を一緒に踊ってくれる友人、両親や弟夫婦、甥(おい)と姪(めい)たち、踊るきっかけをつくってくれたいとこたちと食事することができた。

 私も東京で忙しく仕事を続けている毎日だが、山形に来ると、こうしてのびのびと語り合えるのが幸せだと思った。故郷に住む人間たちはやはり心が温かい。

(劇作家・女優、山形市出身)

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