(59)平和な世界願う~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(59)平和な世界願う

2009/11/30 16:41

 ドイツから帰国してすぐに、パレスチナのガザ地区から自宅にお客さまが2人来ることになった。

 今年の夏の「非戦を選ぶ演劇人の会」のリーディングをご覧になった国際ボランティアセンターの方から、来日する2人にインタビューしてほしいという依頼があったため、帰国する前日の日曜日に私の自宅に招いたのだ。

 本当はもう1人いらっしゃるはずだったのだが、イスラエルによる封鎖がひどくて出ることができなかったのである。

 平和な国日本にいると、犯罪者でもないのに海外に出られないなどという現実があることが信じられないが、ガザ地区の人たちはもう何十年もこうやって軟禁状態が続いているのである。

 孤児の栄養センターに勤務するモナ・アブラマダンさんと医師のムハンマド・スカフィさんは、こういったことが今続いている現実を世界に知ってもらおうとして来日した。まずは事実を知ってもらうことからしか何も生まれないと彼らは言うのだ。

 空爆によって畑を失い、働き口も失い、夢や希望も絶たれてしまい、世界からの寄付に頼らざるを得ない生活。国連からの医療物資が積まれた場所も空爆でやられている。「私たちは動物園の動物ではない。餌だけもらっても、働く生き甲斐(がい)がければ人間とは言えない」。ジャーナリスト土井敏邦さんの撮影した「沈黙を破る」というドキュメンタリー映画の中のガザ地区の人の発言が忘れられない。この映画は山形国際ドキュメンタリー映画祭にも応募された。

 目の前で肉親を銃殺され、神経を病んでしまった子供たちも多くいる。丹精込めて作り続けたオリーブ畑やイチゴ畑も爆撃で壊滅状態という農夫たち。封鎖は爆撃の止(や)んだ今も続いている。

 生まれて初めて訪れたという日本に良い印象を持ってもらいたいと、手料理でもてなそうと考えたのだが、あれもこれもと思いすぎたのと、素敵(すてき)なおみやげを買うことができなかったのとで、後で大いに後悔するパーティーとなってしまった。

 しかし、2人はとても喜んで、医師は即興の歌を歌ってくれたし、モナさんはパレスチナの料理をわざわざ作って持ってきてくださった。現地のブドウの葉に包んでゆでたおいしいお米の料理であった。

 決死の覚悟で何日もかけて来日した2人がこんなにも愛情深いことに驚き、それだからこそ、今までの困難な状況を感じた。

 東京は、山形育ちの私にとってとてもクールに感じることがある。それは他人どうしが支え合わなくても平和で豊かに暮らせるからなのかもしれない。他人に対してもそうだが、家族を非常に大切にして尊敬しあっている2人の優しさと強さに感動を覚えた。いつかパレスチナに行くことを約束してお別れした。

 ドイツ・ダッハウに現存する唯一の強制収容所跡を見学して再確認したのだが、戦争というものは本当に人間を狂わせてしまう。人が人を物のように扱い、想像を絶するような酷(ひど)いやり方で人が人を抹殺してしまうのである。

 正視に耐えないような写真や記録を見、そして今現実に起こっていることをガザ地区からいらした人に聞き、一刻も早く、平和な世の中になることを願い、何かできることを頑張ろうと、また決意したのだった。

(劇作家・女優、山形市出身)

[PR]
[PR]