渡辺えりの ちょっとブレーク

(92)海での撮影「トホホ」

2012/12/1 16:08

 岩手県久慈市の小袖という海岸で9月から撮影を続けている。来年4月から放映されるNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」のロケである。脚本は宮藤官九郎さん。宮城県出身の劇作家だ。

 海がまだ暖かい9月のうちに、潜ってウニを撮るシーンを撮りためた。私は潜るどころか25メートルしか泳げず、息継ぎもうまくできない。それなのにベテラン海女の設定である。東京で丸1日特訓を受けて現地に向かったが、実際に潜ろうとして驚いた。深さは3メートル以上。今まで足の立たないところで泳いだことなどない。シュノーケリングの経験はあるが、その時はいつもライフジャケットを着ている。その恐ろしさを想像していただきたい。

 波の高い日、船で沖まで出てウニを撮るシーンを撮影したが、3時間船の上にいたら船酔いして吐き通しだった。格好だけは本物の海女と見分けがつかないほどの私だが、その実態は「トホホ」なものである。

 10~11月は海辺や久慈市内でロケ。今にも雪が降ってきそうな寒空の下、夏のシーンを撮影した。エキストラで出演してくれた地元の方々も、みんな半袖の薄着。でも文句一つ言わずに協力してくださった。

 宮本信子さんが海女のリーダーの役で、主人公の女子高生アキの祖母役。アキ役はオーディションで選ばれた19歳の能年玲奈さんで、瞳のキラキラした少女である。彼女も生足、半袖でぶるぶる震えながら、お湯をかぶって、海に潜った後のシーンもけなげに頑張っていた。

 夕方4時半にもなると日が沈んで撮影ができなくなるため、早い時間からみんなで夕食を食べに出掛けた。こんなことは地方ロケでもめったにない。しかも出演者のほとんどが昔から親しい役者たちというのも珍しい。

 アキの母親役は小泉今日子さんで、彼女が10代の頃からドラマで共演していた。初めて顔を合わせたのは、先日亡くなった森光子さん主演の「たぬき屋の人々」というドラマ。仲居役の私とお嬢さん役の今日子さんの2人のシーンは楽しかった。今日子さんが初めて小劇場で見たのが、私の主宰していた「劇団3○○(さんじゆうまる)」の芝居だという。アイドルなのに帰りは劇団員たちと最終電車で一緒に帰った記憶がある。

 今日子さんももう40代。カラオケに行き、彼女の持ち歌以外の歌声を初めて聴いたが、「天城越え」「津軽海峡冬景色」などの演歌が素晴らしくうまくてびっくりした。2006年に亡くなった演出家の久世光彦さんが聴いたら本当に喜んだだろうと思った。久世さんだったらすぐにドラマで歌わせただろうと思ったからだった。今回の「あまちゃん」は私が出演していたころの久世さんのドラマに雰囲気が似ている。宮藤さんが、子供のころに見て愛した久世さんの作風を踏襲している場面がいくつもある。これは見てのお楽しみである。

 撮影が休みの日には、岩手県内の仮設住宅と、被災した田野畑村の島越という漁村にも行ってきた。宮城県の被災地に行った時も思ったのだが、東北の人はまず助けられた話をする。自分たちがどんなにひどい目に遭ったかという話よりも先に、ボランティアに来てくれた人たちや食料を送ってくれた人たちへの感謝を口にするのである。

 島越ではかろうじて助かった家が60戸ほど点在している。家が壊れていないため、支援金も保証金ももらえない。一方でスーパーも郵便局も流され、買い物もできず、年金も下ろせない状況だという。車の運転のできない年配の方々が心配である。被災したホテルの工事が終わり、営業を再開するということだったが、またお客さまが戻って来てくれるのを祈るばかりだ。

(劇作家・女優、山形市出身)

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