渡辺えりの ちょっとブレーク

(95)新作「赤い壁の家」

2013/2/23 16:06

 3月10日、私の新作「赤い壁の家」の出演者のオーディションが東京の池袋に近い「サイスタジオ」で行われる。今回は出演者5人と研究生5人の合計10人を選ばせていただくことにした。「ロックオペレッタ」と銘打った音楽劇なので、歌、踊りの得意な方、そして楽器の得意な方を募集中である。

 研究生は来年、再来年のオフィス3○○の公演に出演してもらうために、週1回のボイストレーニングやワークショップで学び、スタッフの仕事も手伝ってもらえる方だ。1回限りの方と未来に向けての人材との両方を募っているのだ。

 7月に稽古し、8月に本番。山形、仙台、広島、兵庫など旅公演もある。山形公演は十数年ぶりではないかと思う。

 ベスビオ火山の噴火によって一瞬にして消えたイタリアの街ポンペイの廃虚の劇場を舞台に、現代と過去を行き来する。そして、東日本大震災で被災した宮城県名取市の閑上(ゆりあげ)地区にリンクしていく物語である。

 昨年ポンペイで、日本に留学していたというイタリア人のベテランガイド、カルラさんの愉快なガイドぶりに触れた時に震災と重ねたストーリーが浮かんだ。紀元前から変わらぬ場所で、変わらぬ形のまま時を告げる日時計。そしてポンペイ赤と呼ばれる赤い壁の家。その壁に描かれた面白い絵画。劇作家の家。噴火の際、溶岩に埋もれた時のままの人々の体。その苦悩の表情までがくっきりと浮かび上がる。そして、その遺跡の中で寝転がる太った野良犬たち。すべてが印象深く、創作意欲をかき立てる。

 そしてシチリア島のピランデルロ(劇作家)の生家のイメージなどが、今頭の中で混沌(こんとん)とした踊りを踊っている。まさに祭りの準備が始まっていて、近々作品として産声を上げるはずなのである。

 本当は昨年書き上げるはずだったが、あまりに不幸が続いたために資料を読む気になれなかった。被災地には何度か行き、被災された方たちの言葉を聞かせていただいた。しかし、それをいま一度思い起こすのは私にとっても辛(つら)く悲しく重い。その勇気と力が生まれる時間が必要だった。そして、理屈ではなく感覚に重きを置いた表現で、そのテーマを描きたいと思っているのだ。

 あのことを、まだまだ昨日のことのように感じている方々が多い中で、コミカルな部分も多い戯曲に書くことなどできるのだろうか?と自問してもいる。しかし、書かなければならないと今強く思っている。人にとって、人の死というものが本当に大きなものであることをさらに確認した時でもあるからである。

 人とは何か? 生きるということは何なのか? 幾度も幾度も問い掛け、問い掛けても答えの出ない真理への希求。

 ポンペイの劇場は野外劇場だとばかり思っていたが、天井に船の帆に使う布が張られていて、その天井はいつも船乗りたちが開閉していたそうである。廃虚の劇場の中央に立った時、芝居をつくるさまざまなスタッフたちの当時の声が方々から聞こえた気がした。紀元前から、今私の問うている謎を解こうと芝居は上演され続けている。

(劇作家・女優、山形市出身)

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