渡辺えりの ちょっとブレーク

(97)愉快な役柄

2013/4/26 16:04

 4月から始まったNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」が好評である。仕事先でも知人たちに声を掛けられる。同業者たちにこれほど声を掛けられたのは映画「Shall we ダンス?」以来かもしれない。

 出演している役者陣が面白いというのである。そして明るくて良いと。

 昨年9月からの撮影は本当に苦労した。寒い中で海に潜ったり、船に酔って1週間体が揺れていたり。同じ演技を違う角度から何度も撮影するスタイルなので、演じているうちに持ち道具を忘れてしまう役者もいるなど、本当にいろいろなことがあった。

 しかし、いざ放映されるとそんな場面は一瞬で終わったり、カットされてしまったりしている。残念だが、記憶の中で、次の仕事の勉強になっていくのだろう。出演者がほとんど小劇場の役者たちなので、スタジオ前の前室はいつも笑い声が絶えない。

 「あまちゃん」の私の役は今野弥生という。岩手県久慈駅近くで夫とブティック「今野」を経営していて、朝は海女をやっているという役である。そして夜はスナック「リアス」でホステスのアルバイトをしているのだ。三つの仕事を掛け持ちしているというところだけは実際の私と似ていなくもないが、この弥生という人は性格が変わっていて、回を重ねるごとにどんな人物か分からなくなってくる。

 民謡の先生をやっていて、シャンソンが得意。英語をやたら使いたがるが、話そうとすると話せない。カリスマやピスタチオなど三つ以上カタカナが揃(そろ)うともう覚えられないらしい。夫には軽い暴力を振るう。

 若者に歌を指導する時は人柄が変わり横暴になる。主人公のアキには優しい。とても可愛(かわい)がっているようだ。ヒロシ(アキの親友ユイの兄)が自分を好きなのではないか?と誤解するような乙女チックなところもある。どうも春子(アキの母)と張り合っているようなところがある。“夏ばっぱ”(アキの祖母)にあこがれている。大吉(北三陸駅長)にも軽い暴力を振るう。

 急におとなしくなったり、凶暴になったり、可愛らしくなったり、カタブツになったりと毎回性格の変わる愉快な役柄である。

 今は東京・赤坂レッドシアターで、アーノルド・ウェスカーの戯曲「根っこ」の本番中(28日まで)。昼公演だけの時は「あまちゃん」の撮影にNHKに行き、日曜日は昼公演の後「渡辺流演劇塾」で研究生たちとの授業となる。

 そしていよいよ8月公演に向けた新作の執筆である。山形市のシベールアリーナでも公演があるので、いつも以上に張り切っている。詳細はこのコーナーで発表するので楽しみにしていただきたい。

 上演中の「根っこ」は、最後の方で娘に怒って喋(しゃべ)る長台詞(ながぜりふ)が、いつも母を思い出して泣いてしまう。もう一度若い母と今の私がきちんと向き合って会話できればと願うが、それは叶(かな)わない。母と娘というのは複雑な関係である。

 大好きなのに大嫌い。

 そして結局はなにをやっても許してくれるだろうという甘えが娘にはある気がする。ひどい喧嘩(けんか)をしても翌日にはケロリとしている。底の方でお互いに信頼し愛しているためだろう。

 「あまちゃん」にもそんな母子のシーンが出てくる。もうすぐ母の日。「かあちゃん」ありがとう。

(劇作家・女優、山形市出身)

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