渡辺えりの ちょっとブレーク

(99)東北魂

2013/6/25 16:03

 ただいま新作戯曲「あかい壁の家」の執筆中である。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の撮影と映画の撮影などいろいろな仕事を必死にやりながら、膨大な資料を読む日々が続いている。

 好きで選んだ仕事をやれる幸せを思えば、やりたくてもできない環境にある方たちに失礼なのは十分に分かっているのだが、徹夜の苦しい年齢になり、節々の痛みもなかなか治らない。するとついつい愚痴も出てくる。すべてに全力投球。帰宅した時には口もきけないくらいにくたびれている。こんな生活をいつまで続けるのだろう? 年も年なんだから、きちんと計画を立てて、休む時間や掃除の時間が取れるようにしないと、さらに高齢になってから後悔することになるのではないか?と落ち込んだりもする。だが、マグロみたいに止まったら生きていけない生物なのかもしれず、とにかく、やらなければならない仕事をひとつひとつ終わらせていくことに集中したい。

 新作はポンペイ(イタリア)と東北のある港町が舞台になる。そこで、童話作家・詩人宮沢賢治の人生を描いた昨年の舞台「天使猫」の時に調べ始めた東北の歴史を、さらに深く調べてみると本当に興味深い。詩人真壁仁(山形市)がさまざまな本を書き、「みちのく山河行」という本で1982(昭和57)年に毎日出版文化賞を受賞していたこともこのたび知った。

 1カ月ほど前、軽い気持ちで近所の本屋さんに出かけ、分かりやすい図入りの日本の歴史の本を3冊ほど購入した。帰宅後に開いてみると、縄文時代の古墳の記述の後から大和朝廷の時代までが空白になっている。東北人ならみんな知ってるはずの蝦夷(えみし)の時代のことに触れられている本が、1冊もないのである。戊辰(ぼしん)戦争の後の力関係から、今もっておおっぴらにはできない歴史となっているのだろうか?

 作家高橋克彦さん(盛岡市)の書いた「東北・蝦夷の魂」が今年出版され評判になっている。権力に屈せず、戦前戦後もコツコツと東北の歴史を調べ続けた先達たちの努力に拍手したい。鉄や金を掘り出し、馬を育てる技術に秀でた心優しく強い精神力を持った東北人の先祖たちが、営利目的のためにいつの時代も中央から攻められ、利用され、滅ぼされてきた歴史があった。そしてそれでもまた立ち上がっていく芯の強さと柔軟さも。このたびの福島第1原発事故も日本の歴史の続きを見るようで腹立たしい。

 NHK大河ドラマ「八重の桜」を見ていても、何とか歴史を変えられないのか?と思ってしまうくらいに悲しく腹立たしい気持ちになってくる。いつも真面目さ、熱心さを利用される東北人である。新政府の命令を拒絶して東北と新潟とで奥羽越列藩同盟を結んで戦おうとした東北魂もこのたび発見した。

 津波で大きな被害にあった宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区の近くに、ポンペイと同じように古く、大きな古墳があるということも分かった。縄文時代にすでに高度な文化が東北を中心とした地域にあったことは間違いない。それなのにその後の文化が明らかにされていないというのはおかしな話である。調べれば調べるほど面白い事実が分かってくる。山形市にもたくさんの古墳がある。ポンペイを調べる前に、なぜ東北の古墳を調べなかったのだろう?と大いに後悔している。今後は父の仕事を受け継いで、山形を含めた東北の古代史、郷土史を調べたいと思う。

 「東北・蝦夷の魂」で、藤原清衡(ふじわらのきよひら)が平泉の中尊寺を建てた時の言葉を読んで号泣してしまった。歴史の本を読んで泣いたのは初めだろう。

 「わたくしは、戦乱で父と叔父を失い、母と妻と初めての子を殺され、弟とは骨肉の争いを余儀なくされました。殺生に手を染めたこの身が、思いがけなくも蝦夷の棟梁(とうりょう)となり、陸奥の民が心安らかに暮らせる国をつくることができました。これを仏の慈悲と呼ばずして、何と呼びましょうか。願わくば、この世界中に、仏の道の根本である、万物皆平等の教えが広まらんことを」

 まさに宮沢賢治の精神である。

(劇作家・女優、山形市出身)

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