渡辺えりの ちょっとブレーク

(109)演劇を志す君へ

2014/5/29 15:16

 今月の日曜日から「渡辺流演劇塾」の第2期生の授業が始まった。昨年4月からの1期生7人と今年の生徒13人の計20人で毎週日曜日、ボイストレーニング、肉体訓練、コンテンポラリーダンス、そして私の演技実習。朝から晩までのハードなレッスンである。

 約20年前「夢人塾」という塾をやり、卒業公演を経て劇団員になるというシステムにして、週7日休みなしの授業をしたこともあったが、採算が取れずに3年間で閉塾してしまった。その後、夏休みを利用した塾など試行錯誤を繰り返し、今回は私が主宰するオフィス3〇〇の公演に参加するための塾。つまり、出演する役者やスタッフを1、2年訓練することにしたのである。若手を育てたいという思いと、自分の劇世界を個性的なものにするための塾である。

 月に4回か5回、毎週日曜日で月謝が8千円なので、随分安いと思う。塾生が1人でも辞めると採算が取れないのだが、たった1回授業を受けただけで辞めてしまった者が出てきた。理由は課題が多すぎて、大学の授業と両立できないというものだった。

 最初の授業で私が出した課題は「アクト・オブ・キリング」「世界の果ての通学路」「チョコレートドーナツ」という3本の映画と「海と大陸」「中学生円山」というDVDを見るというものだ。1週間で5本の映画が見られる嬉(うれ)しい課題である。私の若い頃なら、わくわくしながら見て、感想をたくさん喋(しゃべ)りたいと思う課題である。

 それが苦しい感じに思ってしまうなら、この仕事に命を懸けることはできないであろうから、辞めて当然ともいえる。しかし、せっかくオーディションに受かって始めたのだから1年くらいは続ける覚悟は欲しいものである。熱を出したといって休むものも出てきた。舞台の本番は熱があっても務めなくてはならないものなので、これから演技だけではなく、精神面についても訓練しなくてはならないのだが、1期生も昨年の13人から今は7人なので、2期生の13人もたぶん半分くらいに減るだろうとは予測している。しかし、塾の会計を20人で計算してしまったため、今後何らかの工夫をせねばと模索中である。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2013で「殺人という行為」と題してインターナショナル・コンペティション部門に出品、山形市長賞(最優秀賞)を受賞した「アクト・オブ・キリング」は、若い頃見た「ゆきゆきて、神軍」に匹敵するような凄(すご)いドキュメンタリー映画である。1965年の、インドネシア政府による共産主義者たちの大虐殺に加担して、千人の共産主義者を殺した男たちが主人公の作品である。見ている途中に何度も身体が震え、吐きそうになる。千人を殺した彼らの行為は他人事(ひとごと)ではない。戦争が始まり、相手が敵だとなれば、その人物が善人でも子持ちでも、さらに赤ん坊でも老婆でも有無を言わせず殺さなければならないからである。そして、反省することもなく、得意になって殺した人数を自慢するだろう。

 私が子供の頃、第2次世界大戦で従軍して中国や南方から帰って来た男性たちが法事などの集まりで、酒を飲みながら得意満面に話すのを何度も聞いた。その話を聞くのが大嫌いだった。映画を見て、どうして、自分が殺したり犯したりした人のことを話すのかを理解した。悪事だと心の底で分かっているからこそ、自慢話にして自分の心を正当化しようとしていたのだ。国の方針に従い、やるべきことをした自分は褒められてしかるべきなのだと思いこみたいのである。そして殺せば殺すほど英雄になれるのが戦争なのである。

 この映画を若い人たちが見てどう思うか? そしてどうしても見てほしかったので課題に出したのだった。アメリカ人の監督だが、現地の共同監督は匿名である。現代に作られたこのドキュメンタリー映画が匿名の数人に支えられていた。その勇気に脱帽する。そしてアメリカ人によるアメリカ批判もまた説得力があった。

 ここまで書いて紙面が尽きてしまった。他の映画もテーマの深い素晴らしい映画である。

(劇作家・女優、山形市出身)

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