渡辺えりの ちょっとブレーク

(116)幸せの山形公演

2014/12/16 14:56

 11月30日に山形市の「シベールアリーナ」でオフィス3○○公演「天使猫」を上演した。全国公演を経た千秋楽に山形を選んだのは、もちろん私の生まれ故郷だからである。

 お客さまが手拍子を下さり、乗り乗りの良い舞台となった。昼夜2回公演ができたのも幸せだった。同級生、演劇クラブの仲間、いとこたち。村木沢、美畑町の地元の方たち。みんな駆けつけてくださった。

 東京では1週間以上の公演ができるのになぜ地方ではいつも1回なのか? それが悔しくて、何とか故郷では、と思い続けてきて、昨年と今年とも大入り満員の2回公演ができて幸せである。思えば18歳で上京し、来年で60歳。42年間の演劇人生である。いろいろな方たちの協力を仰ぎ、応援していただいて山形公演の実現がある。ありがたいことである。

 今年の公演は一生の中でも忘れ難いものになった。石巻、盛岡、仙台、そして福島の南相馬に来ていただいた、被災して仮設住宅にお住まいの方たちの表情が目に焼き付いて離れない。これから何ができるのか? 自分にできる限りのことを一生やり続けていきたいと思っている。「世界全体が幸福にならなければ個人の幸福はありえない」。この宮沢賢治の精神にどこまで近づけられるかは分からないが、限りなく近づけるよう努力を続けたい。

 シベールアリーナは井上ひさしさん(劇作家・作家、川西町出身)の作品を上演したくてお菓子屋さんが建てた劇場である。その井上さんが生前一番愛していた作家が宮沢賢治だった。「百姓のために命を捨てよう」と決意した賢治の思いを井上さんもまた踏襲した方だった。農業の大切さを常に文章の中でも説いていたと思う。

 私も田畑の中で育ち、農家の苦労を肌で感じて育ってきた。農業、林業、酪農などを守らない国は国とは言えまい。目先の欲だけを追求しているうちに、自分で自分の首を絞めてしまうことになる。遠い未来を見据え、食文化を守る。そして多数の考えに飲まれず、本質を見抜く知恵を保つことが重要であろう。宮沢賢治の考えは今読んでも新しく正当である。今後も「天使猫」で書こうとした私の思いが伝わるよう、根気よく活動していきたいと考えている。

 母が「さくらパレス」(山形市)に入所した。老人ホームである。母は「老人ホームだけは入りたくない」と昔からよく言っていた。どうして?と聞くと「だって老人ホームは老人の入るところでしょ? 年寄りばっかりのところなんかヤンダ」。自分も年寄りなのだという自覚がまるでなかったのだった。

 先日の公演の時に何度か見舞ったが、ホームにいるのは老人ばかりではなく若くはつらつとした介護士たちがたくさん働いていて、よく面倒を見てくれていた。「母ちゃん、若い人ばっかりじゃないの良かったね!」。耳が遠い母と筆談で大笑いしたが、夫を連れて行ったら「いとこだっけ?」と聞いたり、「結婚したこと忘っだっけじゃー」と言ったり。

 これからはできる限り見舞うつもりだ。そして、ホームの方たちに感謝の気持ちを込めて歌などの慰問も続けたい。東京で好きな仕事を続けた私、両親の面倒を見続けてくれた弟夫婦への感謝も込めて精いっぱい歌いたい。

(劇作家・女優、山形市出身)

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