渡辺えりの ちょっとブレーク

(124)夜の影という作品

2015/8/31 12:59

 8月5日に山形花笠まつりで私と一緒に東京から来て踊った若いメンバーは渡辺流演劇塾の塾生たちだった。その塾生たちの初めての公演「夜の影」が19日東京ザ・スズナリという小劇場で上演された。前にも書いたが、私が25歳の時に書きあげ、初めて山形の父に演劇をやることを許された記念すべき戯曲で、塾生たちが自分たちで決めた演目だった。

 35年前に初演し、30年前に再演された作品で当時まだ10代だった小泉今日子さんも見に来てくれて、みんなで最終電車で帰った記憶がある。人気絶頂のアイドルが劇団員みんなと中央線に乗って、楽しく会話していた。当時17歳か18歳。随分大人の感覚を持ったアイドルだった。

 その公演で「泡夫」という主人公の少年を演じた役者が今回の公演でゲスト出演してくれて、泡夫の老年の姿、靴職人五郎兵衛を演じてくれた。あっという間の30年。「夜の影」は「ゲゲゲのげ」の姉妹編のような内容で、私と弟との実際にあったエピソードを入れて書いた作品である。小学校、中学校とひどいいじめにあっていた弟の話を書こうと思ったのだ。「あの頃、僕は人間ではなかった」。高校生のころ、弟はよく私に言ったものだった。「人間扱いされていない」。そのいじめられた細かなエピソードは戯曲のラスト近くのモノローグに書いた。初演と再演を見に来た弟は嗚咽(おえつ)が止まらなかったという。

 今回、人前で初めて台詞(せりふ)を喋(しゃべ)る初舞台の塾生が多かったが、その台詞ではやはり毎回泣いてしまった。塾生たちも戯曲が全く古くないと言ってくれた。

 スタッフもキャストも全部塾生でという企画だったが、芝居を初めて丸2年の1期生、1年の2期生、3期生に至っては今年の4月にオーディションがあったばかりである。

 劇団時代からお世話になっているプロのスタッフに指導してもらい、私も演出に入って無事に終えることができた。ザ・スズナリは歴史ある劇場で、若手の劇団はなかなか借りることのできない人気の劇場である。3○○でも豊川悦司が主演した「風の振る森」、山崎ハコさんが出演した「赤い靴」「深夜特急」と節目節目の時に使わせていただいた劇場である。地方から上京したての塾生はその意味を全く理解できていないのだが、ザ・スズナリで初舞台を踏むというこのチャンスがどんなものなのか、いつか分かってくれるだろうと考える。

 唐十郎さんが初めに評価してくれ、先日惜しくも亡くなられた劇評家の扇田昭彦さんが「新劇」に初めて劇評を書いてくださった戯曲である。ゲネプロ(本番直前のリハーサル)には唐十郎さんご夫婦、緑魔子さん。そして扇田さんのご遺族もいらしてくださった。本当に感謝である。

 私自身も、劇団員に宛てて、みんなが活躍できる多重構造の戯曲をと、寝ずに、死ぬ気で書いていたあの時間を思い出し、今回も1週間寝る間がなかった。

 35年前と30年前に出演したメンバーが大勢見に来てくれて泣いてくれたのもうれしかった。

 29日から新橋演舞場で「有頂天旅館」が開幕。格闘シーンもさらに激しくなった。

(劇作家・女優、山形市出身)

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