渡辺えりの ちょっとブレーク

(125)おばさんの力

2015/9/30 12:58

 還暦の年最後の特別公演が12月の中旬から東京下北沢のザ・スズナリで上演される。

 小劇場で苦労しながら演劇作品を作り続けている若者たちにとってのあこがれの劇場である。いつの間にか若者でなくなった私だが、自分たちの作品を育ててくれたこの劇場で還暦祝いを締めくくることができればと思うのである。

 上演する作品を決めるのにいろいろと悩んだが、年配のおばさんが活躍し、渡辺流演劇塾の塾生たちが活躍できる戯曲が、43歳の時に書いた「ガーデン」だった。宇宙を一つの大きな庭と捉えた壮大にテーマの作品だが、宇宙の闇から海が出来上がりその水から生命が生まれ、原始人が日本のおばさんへと進化する出だしが愉快な芝居である。

 その進化したおばさん田中さんを私が演じることになる。そして隣の主婦が中嶋朋子さん。双子の主婦と高校生の三役を演じてもらう。スズナリ初登場。「北の国から」の蛍も今はお母さんで、舞台上でお母さん役と子供役を思いっきり演じてもらおうと思っている。

 今、その「ガーデン」を2015年バージョンにするべく書き直しの最中で、その後来年4月に山形のシベールアリーナでも上演予定の新作も執筆しなければならない。これはミュージカルなので早く書きあげないと作曲ができなくなってしまうのだ。

 資料を買い込み準備は整っているのだが、家の整理ができていない。昨年から書類が所せましと積み重なり、手紙類の入った段ボールが何十個もリビングに置きっぱなしだ。先日廊下にあった段ボールを開くと今年の2月からの封の開いていないダイレクトメールも含めた手紙がごっそりと出てきた。

 誰かが開いていないものだけを集めて段ボールに入れてくれたのだろう。そしてその段ボールを廊下に置いたことを忘れてしまったに違いない。慌てて封を切り中身を確認するのに三日かかった。他の、封は開いているのだが未整理のものが何箱もある。重要な仕事の書類も山とある。

 この整理が終わらないと新作も書きあげられないという思いにとらわれ、毎日その作業に追われている。山形六中時代にJRC(青少年赤十字)というボランティア活動をする団体に生徒全員が入っていたと記憶している。その時から発展途上国に奨学金を届ける団体に古切手を集めて送っており、封筒からはさみで切手を切り取りながらの作業である。

 1センチ四方余白を取って切り取るのだが、珍しい切手があるとついつい時間を取って眺めてしまう。中学時代、私自身が切手を収集していたためである。手紙類もついつい中身を読み込んでしまい、時間がどんどんたっていく。休みが1カ月はないと完全な整理はできまいとも思う。それに片付けても片付けても新しい書類が無慈悲にも届く。その封を切らずにまたためてしまうことになる。ああ…。集めた資料の本も読まなければならない。早く早く片付けなくては…。

 そして、私は一体何者なのか?とあらためて考える。山形西高演劇部の頃から同じことをずっと続け、試験の前日に突然勉強部屋の片付けを始め結局は勉強しないで徹夜で登校してしまったあのころと少しも変わらないのではないか? いやいや、試験は嫌いだが、自分で決めて自分で始めた演劇は大好きな作業である。今から始める膨大な仕事の前の整理整頓でくじけてはいけない。還暦特別公演は暮れの12月29日まで。おばさんパワーで頑張ります。

(劇作家・女優、山形市出身)

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