渡辺えりの ちょっとブレーク

(129)庄内弁に悪戦苦闘

2016/1/29 12:47

 庄内では若い娘のことを「おばこ」という。関西の劇作家北條秀司が庄内を旅した時に出会った花嫁行列があまりに美しく舞台にしたいと書きあげたのが「おばこ」という人情悲喜劇である。この2月の40年ぶりの再演に私が主演することになった。庄内の農家の長女で、家族のために芸者となって家計を支える25歳の女性。せりふはすべて庄内弁。

 今年61歳の私が25歳の役というのに驚かれる方もいるだろうが、そこは舞台の夢で、妹役の藤田朋子ちゃんも50歳で19歳の役。役に入り込めば気にならないものなのである。

 庄内弁と村山弁がこんなに違うとは思わなかった。故郷で生まれた時から使っていた村山弁を私は山形弁だと思い込んでいたが、山形県の中でも、最上弁、置賜弁、庄内弁と全然違う方言であった。「めじょげね」が「かわいそう」という意味で村山弁なら「もつこい」というところである。

 語尾には「のー」がつく。「良かったのー」というふうに村山弁の「わがたず」や「んだべ」「んだからよ」は封印されてしまった。「ず」「べ」「よ」は庄内では全く使わないのだそうである。しかもなまらない「し」は「し」のまま「す」とはなまらないのだ。標準語で「何かお見舞いしようと思っていたのですが」というところを庄内弁では「なにがお見舞いしねばねと思ってたんども」というのだ。私たち山形市の人間なら「何がお見舞いさんなねど思っていたげんとも」となる。つまり今回の芝居の稽古はとても大変だということである。

 つい使い慣れた山形弁を使ってしまいたくなるところを庄内弁に変換するのが非常に難しい。時々同じ言葉も出てくる「なして」と「んだが」である。これをしゃべるとつい、なまった山形弁になる。庄内の言葉はゆったりとして上品である。頑張ってものにしようと思っている。今回酒田出身の白崎映美さんが私の親友役で出演する。素晴らしい歌手だが、昔東京乾電池という劇団にいたこともあるので女優さんとしても面白いはずである。長持ち歌を歌うシーンもあって山形の方にぜひ見ていただきたい作品なのだ。

 演出の大谷亮介さんは昔からの友人なのだが、今回はきびしく「売れっ子芸者なのだから痩せてもらわなくちゃ困る」というのである。昨年5キロ減量を果たした私だが、さらに3キロ落とそうと頑張っていたら風邪をひいてしまった。風邪をひいても寝込むわけにはいかず、毎日「おばこ」の広報活動と稽古の日々である。

 周りは新派のベテラン俳優の方たちがしっかりと固めてくださっている。私の母親役には新派の庄内出身の小山典子さん。見事な庄内弁で優しく美しいお母さんを演じてくださっている。人のために尽くし、裏切られても誰をも恨まず、周りの人たちが喜ぶ顔を見たいといつも思っている花子という役は山形の人そのものの役だと思う。花子は私の父の母親と同じ名前。こじきの女性の頭のシラミをすいてあげるほど優しい人だったという祖母を思い、誰にも親切でくるくると働いた母を思い、演じたいと思う。第二部は「渡辺えり愛唱歌」。楽しいトークと歌でお客さまに喜んでいただきたいと思う。

 東京日本橋の三越劇場。初めての出演だが、杉村春子さんや奈良岡朋子さんがお気に入りの劇場で、空襲でも焼けず、戦前のままの姿の観光名所でもある。故郷の皆さん、たまには東京三越劇場でお買い物はいかがですか?

(劇作家・女優、山形市出身)

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