(131)素晴らしい出会い~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(131)素晴らしい出会い

2016/3/30 12:46

 戸田恵子さんは素晴らしい女優さんである。

 今回「わがまま」という私の新作で初めてご一緒しているが、今まで生きて来て一度も「わがまま」を言ったことがないという。

 毎日稽古場でご一緒しているが、本当にその通りで、こちらの演出の要求にも何でも答えてくださるし、若手もかわいがってくださり、気が利くし、料理もうまい。徹夜で新作を書いて演出するボロボロの私を気遣って、お弁当を作って来てくださる。ご自分も台詞(せりふ)や歌を覚えなくてはならず忙しいのにである。私は大感激である。

 才能あるベテランなのに謙虚で、ユーモアも忘れない。私が喋(しゃべ)ったことで何かおかしなことがあると、ノートにメモしながら笑っている。真面目な努力家でもあるのにラフで人に厳しくないのである。こういう人間の鑑(かがみ)のような女優さんが日本に存在した。

 今まで一度も仕事でご一緒したことがないのが本当に不思議である。

 体形も声も対照的。山形の高校を卒業してから上京して演劇の専門学校に通い始めた私だが、戸田さんは幼いころから名古屋のNHK児童劇団に所属し「中学生日記」にも出演していた。中学校卒業してすぐに上京し、ドラマや歌などの仕事をしながら高校に通い、一人暮らしの生活だったという。何でも母親にしてもらっていた高校生の私と、何でも一人でできたという戸田さん。

 そして争い事が大嫌いで、子供のころから、親しい友人宅に遊びに行っても、友人が兄弟げんかを始めるとすぐに自宅に帰ってきたという。今でも仕事の最中に争い事が起きても、その中に戸田さんが参加したことは一度もないという。

 私も今後はそういう人間になりたいと思う。

 いつも穏やかで明るい、稀有(けう)な女優さんだなあと感心している日々、ふと似た人を思い出した。森光子さんである。

 森さんと共演した時の雰囲気とどこか感じが似ている。こちらがどんな演技をしても必ず受けてくれて、とにかくいつも楽しそうにしている。そしてどんなシーンも自分で工夫して面白くしてしまう。そして何があっても人のせいにはしない。

 60歳を過ぎてから新しい良い出会いがあるということは幸せなことだなあとつくづく思った。

 どんどん先が短くなって今後のことを考える時が多くなったが、相手を思いやりいつも優しくできたらどんなにか幸せだろう。

 震災から5年。ますます格差が激しく、復興もまだまだな現実の中、そんな温かい見えないものを大事にして、つらい思いをしている方たちの力になれるよう、自分を磨きたいものである。

 シベールアリーナの「わがまま」公演は4月9日と10日です。お待ちしています。

(劇作家・女優、山形市出身)

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