渡辺えりの ちょっとブレーク

(133)強く、謙虚で優しく

2016/5/31 12:44

 「わがまま」の公演の直後から「100の資格を持つ女」という2時間ドラマの撮影が始まり、毎日5時起きというハードな撮影が無事に終了した。シリーズ11作目で10年近く続いている人気ドラマである。草刈正雄さん、笹野高史さんという好対照で素晴らしい役者さんとも長いお付き合いで、家族のように思えてくる。お二人とも自分に厳しく、相手に優しい。私もそうありたいと、この頃強く思う。60歳を過ぎたからこそ見えてくる世界がある。若い時には見えなかった仕事に向かう人間の心模様が見えてくる。

 「100の資格-」の監督は吉川一義さんで大ベテランの81歳である。助監督も経験した苦労人だか天才的に撮影のテンポが速く、優しくせっかちで明るく監督の仕事を愛してやまないすごい方である。役者の心が熱いうちに、演技が新鮮なうちに撮影を終わらせるという信念を感じる。スタッフが丁寧な仕事をするのは当然だが、役者をむやみに待たせてしまっては逆効果なのだと監督はおっしゃる。役者にもスタッフにも愛があり、細やかな神経を持つ大好きな監督である。撮影監督の上赤寿一さんとも良いコンビである。とにかく現場が明るい。監督の周りに集まるスタッフもみな、温かく、明るい家族的な雰囲気の方たちばかりである。80歳を超えてこんなに楽しそうに仕事を進められたら…。私も吉川監督を見習いたい。

 渡辺流演劇塾も4期生を迎え、6月の発表会に向けての稽古中である。福島の飯舘村の5年間を撮影し続けた古居みずえ監督の作品「飯舘村の母ちゃんたち 土とともに」や山形の農民詩人を撮影したドキュメンタリー「無音の叫び声」など私がアフタートークを依頼された作品を映画館で塾生の希望者に見てもらっている。

 若い塾生たちはこれらのドキュメンタリーを見るまで、農業に関しても、原発事故のその後に関しても全くといっていいほど知らなかったといい、涙を流して感動する者もいる。こうやって根気よく、塾生たちに普段は見えなくなっている真実を見つめるきっかけを作りたいと考えている。現代を生きる人間を演じるためには、現実を知ることが大事だと思うからである。作品が虚構である分、役者のリアリティーが必要である。実際にそこで生きている人間に見えなければ役者の意味はない。

 25日に国際交流基金からの依頼で対談した、カンボジアの女性監督ソト・クォーリーカーの作品「シアター・プノンペン」もすごい作品である。この対談も塾生の有志たちが聴きに来てくれて、大いに感動したという。虐殺などで200万人近くが犠牲になったクメール・ルージュ政権からまだ40年。今まで外国人によって作られたカンボジアの映画はあったがカンボジア人が自ら今のカンボジアを捉える映画を自らの手で作りたかったという若い女性監督の作品に誰しも胸を打たれるだろう。

 彼女の父親もクメール・ルージュによって処刑され、その重たい経験もすべて作品に込められている。映画や演劇を作るアーティストたちがすべて処刑され、劇場も映画館もすべて閉鎖された経験を持つカンボジア。その歴史の中から生まれた素晴らしい映画だ。何者にも屈しない女性の強さとしなやかさを見た。

 私もコツコツと自分の作品を作り続けようと改めて決意した。強い人はみな謙虚で優しい。私もそうありたい。

(劇作家・女優、山形市出身)

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