渡辺えりの ちょっとブレーク

(135)やっと熊本へ

2016/7/29 12:42

 6月末に熊本に行ってきました。

 山形で初めて初日の幕を上げた「わがまま」の公演中、熊本の大地震があり、「パンフレットの売上金を義援金として、直接お持ちする。そして山形のサクランボを熊本の皆さまに召し上がっていただく」とお客さまに約束し、シベールアリーナに置かせていただいた募金箱のお金も一緒に持っていくことができました。

 サクランボは佐藤錦を持っていきました。サクランボ農園を営む山形西高の同級生が真っ赤な甘いサクランボを送ってくれました。

 今年のサクランボは特に甘くておいしかったですね。熊本の方たちもとても喜んでくれました。被害が一番大きかったのは益城町。熊本城のある熊本市ではなかったのです。テレビのニュースで見ていると、熊本城の被災の様子の後に益城町の被害が放映されることが多く、私は地理を理解していませんでした。

 避難所にはいまだに多くの方たちが生活しており、各避難所を全国から集まったボランティアの方たちが取り仕切っておられたのが、東北の震災の時とは違った点。被害の程度が各地域で違いすぎて、対応が難しく、役場の方たちの手が足りないためのようです。がれきと化してしまった痛ましい家屋の隣に全く無傷の家屋が並んでいたりという不思議な光景。ガスも電気も水道も通っていない被災した家の向かいでは、普通に生活できている方たちもおられるという、複雑な被災です。

 2日間で益城町の避難所での絵本の朗読。熊本市の演劇人たちとの交流。大西一史熊本市長にサクランボを届け、お城の被害などをお聞きするという、慌ただしい日程でしたが、行く先々でとても喜んでいただき、熊本の方々の明るく親切な人柄に触れることができました。

 皆さん非常に大変なのに、義援金ももっと大変な方に渡してくださいとおっしゃる方ばかりで、東北人の魂に重なりました。

 益城町の避難所では被災した母子の支援をしておられる熊本市の助産婦さんに紹介していただき、母子に絵本の朗読をしたのですが、第2次世界大戦中に東京都知事の命令で殺されてしまった象たちを描いた絵本「かわいそうなぞう」を朗読してしまい、被災した方々を泣かせてしまいました。浜田広介の「泣いた赤おに」「りゅうのめのなみだ」も持っていったのですが、私の好きな童話は悲しい話ばかりで、今後は熟考したいと思います。

 熊本市の健軍という町にある、劇団の稽古場に演劇人たちに集まっていただき、被災の様子をお聞きしました、皆さん、震災の日の恐ろしい体験や現状をお聞きしましたが、劇場がすべて被災していて使用できず、今後の活動の困難さに悩んでおられました。古いビルを苦労して改装し、ようやくオープンするはずだった劇場が被災し、取り壊されることになり、絶望しか今は何もない、と語った演劇人の苦悩の表情。市や県の劇場は9月に予算会議があり、その後に復旧作業が開始されると聞きました。個人で頑張っておられる演劇人への支援の工夫を考えなくてはならないと思います。

 熊本市長大西さんは元ドラマーということで音楽や演劇に対しても理解のある、さわやかで若々しい方でした。佐藤錦をとても喜んでくださり、被災した演劇人に対する支援も約束してくれました。地震の当日大揺れの中、役場に走って出掛け足を切り、執務室で、麻酔なしで8針縫ったという逸話の持ち主です。

 開設したばかりの仮設の市場でお土産などを買っていたら陸前高田から車で一人でボランティアに来たという主婦にお会いしました。自分が被災した時にこの時期が一番つらかったから、お手伝いに来ましたとおっしゃいます。その心に本当に感激しました。

 8月1日から東京・新橋演舞場で「狸御殿」が始まります。宮本亜門演出のミュージカルで私は尾上松也さん演じる主人公狸吉郎の母親「きらら」という、狸御殿の女主人役です。「愛」「夢」「自然」の大切さをテーマに笑って泣ける壮大なミュージカルです。私も歌って踊ります。

(劇作家・女優、山形市出身)

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