渡辺えりの ちょっとブレーク

(136)歌って踊る「狸御殿」

2016/8/31 12:42

 演劇をやりたくて東京の演劇専門学校「舞台芸術学院」で3年間学んだ私だが、バレエの先生は、市村正親さんも教わった、厚木凡人先生や堀内完先生である。高校時代は山形市の新宮登山形バレエアートスクールで1年間学んだ。新宮先生は80歳を過ぎても今も現役で踊っておられるすごい先生である。

 高校時代、舞芸時代、クラシック、モダンバレエを習っていたのは確かだが、それ以後、映画「Shall we ダンス?」以外ではあまり踊る機会には恵まれなかった。

 それが還暦を過ぎて、戸田恵子さんと二人ミュージカルをやり、今回の「狸御殿」では歌って踊るショーの場面があった。つまり、61歳で40年ぶりに過激に踊ることになったのだ。歌って踊る人といえば、私たちの世代には金井克子さんが有名だったが、息切れせずに何で踊れるのか?と疑問を持っていた。

 テープではなく、生の歌で1カ月公演。稽古場では息切れすることも度々あったが、本番に入ってからはそういうこともない。毎日踊っているうちにこつをつかんでくるらしい。激しく踊ってもあまり疲れない。習うより慣れろとはよく言ったものである。

 山形の村木沢で生まれた時、日本はクラシックバレエブームで、「りぼん」や「なかよし」「少女クラブ」はチュチュを着た、森下洋子さんや浅野寿々子さん、松島トモ子さんらが表紙を飾っていた。私もプリマドンナに憧れ、バレエを習いたかったが、バスにひどく酔う質(たち)だったのであきらめた。村木沢の山王から教室のある七日町まではバスで40分ほどかかったのだ。幼児期の夢が61歳にして叶(かな)うこともあるのである。

 また、今回は笑わせては絶対ならない二枚目役で、その上、赤井英和さんとのキスシーンもある。

 見に来てくれた大竹しのぶさんの話では、私は昔からこういう二の線の役がやりたいとしょっちゅう言っていたという。「しのぶちゃんは良いなあ…もてる役ができて…」とかいつも言っていたという。

 これも自分では気が付かないうちに61歳で演じることができていたということなのである。

 今回、初めての二の線役に苦心しながら座骨神経なども痛めながら夢中で頑張ったが、偶然にも昔からの夢を叶えていたのであった。それから奇遇だったのは、今回の舞台美術が、山形六中の後輩荒井良二さんだったのである。荒井さんは大活躍の絵本作家で、私の2年後輩で、生徒会で仕事をしていた私の記憶があるという。同級生が経営している東原町の「梅蕎麦(そば)」にもよく行くとのこと。今回の舞台稽古の時に荒井さんが私に声を掛けてくださり発覚したのだ。

 今回オーディションで合格して出演しておられるダンサー、歌手たちはみんな気持ちの良い、明るい方たちばかりである。2回公演が続きクタクタでも顔に出さず、笑顔を絶やさない。ミュージカルは体を酷使しなければならない過酷な舞台である。気力と体力がひいでていなくては始まらない。全員がミュージカルを愛しているから元気なのだ。

 尾上松也さんも31歳で初座長なのに全く愚痴もこぼさず、悪口も言わない。毎回演技を深めていくプロ中のプロ。六十を過ぎてから学ぶことはたくさんある。

(劇作家・女優、山形市出身)

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