渡辺えりの ちょっとブレーク

(141)新作が上演中

2017/1/30 12:33

 今月18日から2月5日まで、東京・三軒茶屋のシアタートラムで私の新作「鯨よ!私の手に乗れ」が上演中です。私の母の介護施設でのこと、私が生まれた山形市村木沢の祖母たちとの思い出なども入れた、架空の東北の街を舞台にした作品です。昔、鯨漁が盛んだった頃の思い出も入っています。岩手県の山田町には「鯨と海の科学館」がありましたが、震災で流されてしまったという記事を見たこともきっかけになりました。格差社会、介護問題、難民問題などなど、現代のさまざまな問題を入れました。

 私も高齢になって老人ホームに入ったら演劇好きな人を集めて劇団を作ろうとのんきなことを考えていましたが、母が認知症になってしまったときに、きびしい現実に目を向けざるを得なくなりました。日本という国の高齢化社会に対する策の無さも今、浮き彫りになっています。

 介護士不足は介護士の給料の安さや過度の労働によるものでしょうし、介護の方法の改善なども必要でしょう。高い税金は福祉にもっと使わなくてはならないと感じます。現代のいろいろな問題をファンタジーの中で描いたつもりでいます。地方の劇団で40年前に上演しようとしてできなかった作品を、みんな介護施設に入所する年齢になって上演しようと稽古に励む、元劇団員たちの話です。上演の前日になぜ主宰者が失踪してしまったのか? さまざまな謎が浮き彫りになっていきます。

 もう役の台詞(せりふ)しか喋(しゃべ)れなくなってしまった主演女優。劇団員たちと同じ年齢なのにまだ介護ヘルパーとして働かざるを得ない下流老人と言われる元役者。実は昔、主宰者とは恋人同士で今も介護施設でみんなに演出しているが、自分はまだ若いと思い込んでいる87歳の元演出助手。元地方劇団「谷間の百合」の老人たちが現実と劇中劇と回想シーンを行ったり来たりしながら「鯨よ!私の手に乗れ」という作品を上演しようとしているストーリーなのです。

 作品は40年前、戦争の犠牲になった子供たちを救おうという理想のために書かれたという設定。鯨はある理想「平和」の象徴として描かれています。幻のシロナガスクジラで、その背にはある島で孤立した難民の子供たちが乗っています。おかげさまでお客さまの評判がとても良いです。

 毎回アフタートークに豪華ゲストが出演してくださっています。23日のゲストは市村正親さん。22日に「ミス・サイゴン」のラストステージを終え、駆け付けてくださいました。「愛にあふれた良い芝居だった」との言葉をいただきました。激しい踊りや歌で魅了してくれる68歳の大先輩です。毎日の訓練、ストイックな生活があっての、あの肉体なのでした。

 市村さんは舞台芸術学院の先輩で、西村晃さんの付き人を3年間やった後、劇団四季に入団されたそうです。私が20歳の頃、喫茶店でお茶を飲んでいるスターの市村さんに「ぜひ来てください」と芝居のチラシを手渡したら、池袋のシアターグリーンまで本当に足を運んでくださいました。昔から気取らず、情の濃い方です。今回の新作に出演している方々も皆さんすごい先輩ばかり。次回詳しく書かせていただきます。

(劇作家・女優、山形市出身)

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