渡辺えりの ちょっとブレーク

(142)虚構に迫る現実

2017/2/28 12:32

 今年は自分の新作の公演が1月18日から2月5日まであり、年末年始も故郷には帰れず、2月の中旬になってようやく両親に会うことができました。年末に母に電話したときに、「えり子なの、さっぱりこね!!」と言われたのがショックでした。両親共に老人ホームに入り、手厚い介護を受けて、表情も明るくなり、ケアマネジャーさんが時々送ってくださる楽しそうな写真を見て安心していたのですが、電話口で「私がえり子だ」と告げると、そう叫んだのでした。

 3カ月ぶりに会いに行くと「誰だっけ?」と尋ねられ、まるで、自分の書いた新作と同じになってしまいました。すぐに思い出してくれて、大笑いしましたが、私がまだ一人なのかと何度も尋ね、「自分も一人だ」と、何度も言います。「子どもなのいね」とも言って、これまた、私の新作の中の虚構の母と同じになってしまいました。母の2年前のエピソードをデフォルメして書いた内容に現実が迫ってしまったのです。

 父に「寂しくないか?」と聞くと「自分は東京でずっと一人暮らしをしてきた人間だから大丈夫だ」と言います。戦前、武蔵野市の飛行機工場で働いていた時代とダブっているようです。職員の方たちに優しくしていただき、安心している2人を見てほっとする半面、側(そば)で面倒を見てやれない、自分が嫌になってきます。消防訓練やクリスマスではしゃぐ両親の子どものような笑顔の写真を見せてもらいながら、自分たちを犠牲にして、私たちきょうだいを懸命に育ててくれた両親の愛情が甦(よみがえ)り、胸が熱くなってくるのでした。

 両親が昔から好きだった蕎麦(そば)を食べに幸町へ。父は天ぷら蕎麦を平らげましたが、母は蕎麦の食べ方を忘れてしまい、蕎麦つゆを使わずに、生のまま食べてしまいました。翌日はイタリアンへ。平日の昼間なのに行列を作るほどの人気レストランに行き、ステーキやスパゲティ、ケーキなどをまたまたおなかいっぱいに食べてしまいました。ここでも父はすごい食欲。母は前よりも食べられなくなっている感じ。

 でも、うれしい驚きなのは、老人ホームに入るまでは、蕎麦屋やレストランに入っても1分に1度はトイレに入りたがっていた母が、今は落ち着いて食事を取れるようになっているということ。手芸や編み物などの製作もやらせてもらい、若い職員さんたちに声をかけてもらって、気持ちが落ち着いているのだと感じました。2日一緒にいただけでもクタクタになるのに、大変なことをやっていただいているなあ…と改めて思ったのでした。

 急に電話したのに集まってくれた、演劇部の仲間や同級生たちと会って、話の花を咲かせたのもうれしかった。山形新聞のこのコーナーの歴代の担当記者さんたちともお会いでき、盛り上がりました。皆さんお元気で安心しました。お土産に頂いたお蕎麦もおいしくごちそうになりました。

 今年は山形で芝居の上演ができませんが、秋に南陽市の新しい文化会館でコンサートを開く予定です。今年もよろしくお願いします。皆さまとお会いできる日を楽しみにしています。また質問もどんどんお寄せください!! このコーナーで、お答えさせていただきます。

(劇作家・女優、山形市出身)

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