渡辺えりの ちょっとブレーク

(144)満開の桜の下で

2017/4/25 12:27

 今稽古中なのは「黒塚家の娘」という、能の「黒塚」を下敷きにした北村想さんの新作です。出演は高橋克実さん、風間俊介さん、趣里さんと私の4人だけ。みんな真面目で熱心な方たち。演出は十寺吾(じつなしさとる)さんで、十寺さん自身が面白い役者さんです。

 珍しい名前で初めは誰も読めないのでてっきり本名かと思ったら芸名でした。わざと読めない名前にしたのは、両親に演劇をやることを反対されていたので誰だか分からなくする必要があったとのこと。私は逆に反対されたからこそ、どこでも本名を名乗り、テレビなどの映像に出て両親に認めてほしいという思いがありました。

 稽古終わりにみんなで花見をした時に初めて聞くそんな話で盛り上がりました。花見と言っても稽古場近くの神田川沿いに咲く満開の桜を見ながら、東中野駅まで一駅歩いてちゃんこ鍋屋さんで一杯やったのでした。

 今年は初めて目黒川の桜も昨年の「狸(たぬき)御殿」の仲間たちと見ることができました。ライトアップされた桜が見事でしたが人が溢(あふ)れていて身動きが取れません。山形の人が見たら「そこまでして桜が見たいの?」ときっとあきれるくらいの人出なんです。屋台などの出店だけではなく、川沿いの飲食店にぎっしり詰まった人々。どこも1席も空きがなく、ブティックなどもお酒や焼き鳥を売っているのが驚きです。中に山形の玉こんにゃくが売られていたので思わず買ってしまいました。わざわざ「山形の玉こんにゃく」と紙が貼ってありました。花笠まつりと見紛(まが)う人出です。

 それにくらべて神田川は静かで、人通りも少なくゆったりと満開の桜を見ることができました。花の見事さは目黒川に劣りません。両親に見せたいとすぐに思ったほどの美しさでした。山形の霞城公園の桜を今年もまた両親と見に行きたいと思っています。あと何回お堀端を両親と歩けるのか? 稽古休みの日に帰郷して記念写真を撮りたいと願っています。

 若い頃はゆっくり桜を見た記憶はありませんでした。40歳の時に満開の桜の日に親しい友人をがんで亡くしてから、桜を見るのがつらくなり10年ほどは見なかったと思います。50を過ぎて桜の美しさに惹(ひ)かれるようになりました。老木が必死に新しい花を咲かせる景色に重なる気持ちが出来てきたからだと思います。

 今月30日に母校の山形西高演劇部が、私が若い頃、山形の祖母をモデルにして書いた戯曲をアズ七日町(山形市中央公民館)で上演してくれます。若い新しい花がどんな輝きを見せてくれるのか? 時を超えて後輩が私の作品を選んでくれたことをとてもうれしく思っています。亡くなった祖母も喜んでくれていると思います。村木沢からも何人か見に行ってくださることになっています。

 若くして夫を亡くし、東京の中野から村木沢の山王に戻り、苦労を重ねながら子育てした祖母の夢の話です。今老人ホームにいる私の母も登場する話です。

 5月には渡辺流演劇塾の6期生の募集もあります。若い花たちに古木の養分をどんどん吸い取って大きくなってほしいと願っています。

(劇作家・女優、山形市出身)

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