(154)若君に心救われ~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(154)若君に心救われ

2018/2/27 11:46

 大阪松竹座で「有頂天一座」の上演期間中にこれを書いている。東京も大阪も大入りでお客さまが本当に喜んでくださっている。ラストの場面はすすり泣きが聞こえ、カーテンコールも3回ある日があるくらいである。大阪のお客さまは感情表現が豊かだなあ…と東北人の私はもっともっと見習おうと思った次第である。

 63歳で膨大な台詞(せりふ)を喋(しゃべ)り踊って歌って走り回って。稽古場では確かに苦しかった。国定忠治と「瞼(まぶた)の母」のビデオを見て研究し、女剣劇の歴史を調べ、何とかベテランの女剣劇の座長に見せようと必死な日々であった。オフィス3〇〇(さんじゅうまる)の公演「深夜特急」も重なり、監修と衣装デザインも担当して忙しさに泣きたくなることもしょっちゅうだったが、こちらも好評の初日の幕が上がった。こちらは人気脚本家の大森寿美男さんに演出をお願いした。昔一緒に舞台を作っていた仲間である。

 「有頂天一座」の厳しい稽古を支えてくれたのは50周年記念コンサートで全国を回って50曲歌った沢田研二さんである。69歳で3時間50曲歌いっぱなし走りっぱなしのジュリー。苦しい時には山形県民会館で見たそのステージを思った。1月25日の東京・NHKホールにも行き堪能した。

 今回2回公演が続き、倒れそうな日々を支えてくれたのはNHKの深夜の再放送のドラマ「アシガール」だった。昨年放送されていたそうだが時間帯が合わず見ていなかったのが、疲れて帰る大阪のホテルで何気なくつけたテレビにくぎ付けになってしまった。

 友達が出演するということもあって見始めたのが病みつきになり、1週間近く午前2時まで毎日見てしまった。少女漫画が原作なので、私たち“少女”の好きな3大要素が全部詰まっている。「プラトニックラブ」「男女平等、女性の精神が自立している」「平和主義」である。この全てが入っていて心地よい。そして戦国時代の若君役の設定がすごくかっこいい。

 食べ物がない時は部下に食べさせて自分は3日食べなくても我慢する。庶民のために身を犠牲にして戦う。とにかく正義を貫く。人を愛し疑わない。自分が孤独で愛に飢えているのに人をこよなく愛そうとする。心が広く、探求心があり、決して諦めない。そして、普通の16歳である主人公の少女を愛してしまうところがやはり一番すごいのだ。

 ただ足が速いだけの、おっちょこちょいの普通の高校生。手足が棒のように細く、色気もなく浅黒い肌の少女。戦国時代の若君が現代からタイムスリップした女子高校生を好きになってしまうのである。深夜このドラマに入り込んでしまい、朝早くから楽屋に入って午前11時半と午後4時からの公演があるというのに、毎夜深夜まで見てしまった。自分を女子高校生に重ね、若君さまに完全に恋してしまったのだ。

 舞台で死にそうにつらい時でも若君もあんなに我慢している、と思うと乗り越えられるのだ。架空の人物だと分かっていてもその性格と優しさに心ときめき、耐えられるのである。

 昔「スタンド・バイ・ミー」という映画を見てリバー・フェニックス演じる少年に救われたように、私は今この若君に救われている。

(女優・劇作家、山形市出身)

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