渡辺えりの ちょっとブレーク

(163)家族の大切さ思う

2018/11/30 21:56

 12月初日に公演が始まる「喜劇 有頂天団地」は、1978(昭和53)年設定の芝居。当時のヒット曲が流れ、懐かしい雰囲気のコメディー。キムラ緑子さんとの有頂天シリーズ3作目の松竹作品である。

 客入れ音楽として流れるのは、ジュリー(沢田研二)の「カサブランカ・ダンディ」。開演前に胸が熱くなってくる。

 昭和53年といえば、23歳で劇団を旗揚げした年で、その頃の母親の年代を私が演じることになる。

 当時、私と母はよくぶつかっていた。母の言うことなすことが気に入らず、考えていることが閉鎖的で差別的だと感じていた。保守的で事なかれ主義でもあり、私とは真逆の性格に思えた。

 山形で毎日言い合っていた関係が、私が芝居をやるために東京に出てから変わった。

 私は初めての一人暮らしで、母に束縛されなくなってホッとした面もあったが、日常のさまざまな知識などで母に頼るようになり、その愛情の深さに気が付き、感謝するようになったのだった。そして、遠く離れて、客観的に親子関係も考えられるようになり、母親の、私から見れば特殊だと思える考え方は第2次世界大戦中の軍事教育の名残なのではないか?と考えるようになった。

 人を学歴で判断したり、人種差別したりする偏見や、女性だからこうしなければならないという男尊女卑の考え方などである。性的少数者に対する著しい偏見もそうである。私は山形にいる時にそういう母の考え方をことごとく否定し、反論し、議論した。

 そんな頃の母を演じるのだ。そして当時の私と同じ年齢の役は、元AKB48の片山陽加さんが演じる。

 私は、毎日複雑な気持ちになりながら、「隅田秀子」という主婦を演じている。夫は船乗りという設定。最後まで登場しないので、私は「ダーリング」のジュリーをイメージして演じているが、精神的に夫を頼り、夫が一家の長であるという時代背景の下、夫の留守中に起きる事件に立ち向かう。

 自立できていない主婦の性格があまりにつかめず、四苦八苦する日々だ。登場してこないジュリー似の夫を、精神的に頼るしかない。世の中を変えたい、との情熱で劇団を旗揚げした自分に対決を挑むような役どころである。

 先日その稽古を休み、上山市で開かれた、車いす女優萩生田千津子さんの会に参加出演させていただいた。上山出身で、私も憧れていた文学座に入団して杉村春子さんにかわいがられていた女優さんである。不慮の事故で半身不随になられたが、努力を重ねて復帰された。山形駅で真っ赤なコートを着て、さっそうと列車に乗り込む大柄な美人に憧れたものだった。

 素晴らしい家族に恵まれ、周囲に愛を振りまく萩生田さんと話し、「家族」の大切さをあらためて思った。

(女優・劇作家、山形市出身)

[PR]
[PR]