渡辺えりの ちょっとブレーク

(165)夢に年齢、関係なし

2019/2/28 21:43

 市川森一さんと藤本義一さんが始められた東京作家大学で今月17日、年齢を問わずに作家を目指す方たちが現役作家たちの講義を受講できる講座のゲスト講師をやらせていただいた。

 父が高村光太郎に心酔するきっかけになった武蔵野の軍需工場でのエピソードを紹介した。父に取材して書いた「光る時間」の話や、宮沢賢治の死後発見された手帳に書かれた「雨ニモマケズ」を高村が全国に広報した話、その縁もあり花巻(岩手県)に疎開したが空襲に遭い、太田村(同県)の山荘に独居した話、父との約束で30年かかって「月に濡れた手」という戯曲を書いた話。賢治の生涯を描いた「天使猫」を書くことになったきっかけなど、父の話を中心に講演させていただいた。

 皆さん熱心に耳を傾けてくださり質問も積極的で、楽しい時間を過ごさせていただいたが、中に96歳の受講者がいて驚いた。一番前の席で熱心に聞いてくださり、本も購入してくれサインをしている間にいろいろと話すことができた。

 戦争中は父と同じように軍需工場の化学班で働き、戦後は画家になり中国で絵画の指導をして収入を得ていたという。もう何年も生きられないので、お金は東北や熊本地震の被災者に寄付しているとのことだった。劇場で芝居を観るのも楽しみの一つで、今は東京作家大学で作家になる勉強をしているのだそうである。「あなたに会うのが楽しみだった。応援しているよ」とおっしゃってくださり、大きな勇気を得られた。

 昨年の2カ月間の舞台の疲労もあり、64歳の今、今後何を進めて行けるのか? 悩み続けていた昨今、96歳で夢を失わず前向きに突き進む彼の言葉と優しさに「あきらめるな」と背中を押された気がした。

 そして、同じ日に中野(東京)のザ・ポケットという劇場で、私が2年前に書いた戯曲「鯨よ! 私の手に乗れ」を上演してくれている劇団の舞台を観劇し、文学座の演出家生田みゆきさんとのアフタートークに出演した。一番若くて43歳、最高齢83歳の演劇集団プラチナネクストという劇団である。

 「鯨よ!」は介護施設に入居している老人たちが実は元地方劇団のメンバーで、昔上演できなかった芝居を認知症になってしまった今、上演してしまうという作品。初演は木野花さん、鷲尾真知子さん、久野綾希子さん、銀粉蝶さんらが出演し、評判になった作品である。回想シーンで老女たちの若い頃の役を若い役者が演じたのだが、今回の演劇集団プラチナネクストでは回想シーンも年配の役者が演じているので、シュールな台本がさらにシュールに見える。全員が年寄りでみんな楽しそうに演じ、生き生きとしている。

 ここでもまた励まされた。自分の意志で選んだことを自分のできる限りの力で演じ作る。皆さん仕事を退職した後、第2の人生を演劇に投じている。夢を見るのに年齢は関係ない。寝不足で疲れ切っていた全身が生き返った気がした。

 初演の「鯨よ!」で私の役を演じてくれた桑原裕子さんが、今年の読売文学賞を受賞。木野花さんが70歳でキネマ旬報助演女優賞に輝いた。演劇に関係する今年の賞は、女性が多くうれしい限りである。

 今年の8月、山形での公演が実現します。出演は以前に山形市民会館でも上演された「ミザリー」で共演した、いま大活躍の小日向文世さんと、なんと「あまちゃん」で共演した初舞台ののんちゃん。2人とも前から3○○(さんじゅうまる)で一緒に作品を作ろうと約束していました。やっと夢が実現します。原作は芥川賞を受賞した上田岳弘さんの「私の恋人」という作品です。皆さんぜひ、いらしてください。

(女優・劇作家、山形市出身)

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