(167)思い出の地、県民会館~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(167)思い出の地、県民会館

2019/4/30 21:42

 8月25日の午後2時から県民会館(やまぎんホール)でオフィス3〇〇(さんじゅうまる)の公演が決定しました。出演は若い頃から気が合って信頼している小日向文世さんと「あまちゃん」で共演して仲良しになった「のん」ちゃん。3人で30の役に挑戦します。今年芥川賞を取った上田岳弘さんの「私の恋人」をモチーフにして、現在から原始時代まで、過去、現代、未来と3人で時空を飛び回ります。

 県民会館での初舞台は山形西高演劇部の公演「青い鳥」。入場料千円で大入り満員の大盛況。翌年は親友中井由美子が演出した寺山修司作の「犬神」。この舞台では故郷村木沢(山形市)で近所のおばあさんに御詠歌を習って姑(しゅうとめ)役に挑戦した。

 「訳が分からないけど面白かった」と祖母が喜んでくれたのがうれしかった。高校3年の時は新宮登アートスタジオで習っていたバレエの発表会。小学生に交じって高校生の私が「白鳥の湖」の群舞の白鳥を踊ったら、友人たちが笑い過ぎて椅子から転げ落ちているのを発見。

 また高校1年の時に観た「ガラスの動物園」。この舞台を県民会館で観なければ、今私はこうして東京で演劇をしていなかったかもしれない。長岡輝子演出のこの作品に心が震え、しばらくは椅子から立ち上がることができなかった。出演は、長岡輝子、江守徹、高橋悦史、寺田路恵。今でも場面が浮かぶほど鮮烈な作品で、演劇部の先輩とアポなしで会館の楽屋に長岡さんに会いに行き、教えを請うた。それが16歳の頃。この後、28歳で「おしん」で共演することになる。長岡さんは102歳で亡くなるまで私の作品を観に来てくださった。

 50歳を過ぎて、浅丘ルリ子さんと県民会館で共演することになり、会館に入ると、私の楽屋が当時の長岡さんと同じ楽屋だったのに感激した。俳優を目指し楽屋を訪ねたあの時の自分を裏切れないと、その時強く思った。

 沢田研二さんのコンサートも今年と昨年、県民会館で聴くことができた。

 濃くて深くて強い思い出の数々。三田和代さんの「オンディーヌ」、山本圭さんの「ハムレット」、平幹二郎さんの「ハムレット」、自由劇場の「上海バンスキング」、民芸の「三人姉妹」、杉村春子さんの「華岡青洲の妻」などなど、高校時代に会館で観た舞台が今も新鮮によみがえる。

 舞台ばかりではない。映画教室で「アンクル・トム」や「エル・シド」を観たのも県民会館だ。その劇場がなくなってしまう前に3〇〇の新作を上演するのが夢だった。

 64歳になってようやく実現する「夢」。どうか故郷の皆さんにも同じ時間を共有していただきたいと願うばかりです。

 今年は新作公演のため、残念ながら、山形花笠まつりに参加できないと思いますので、この日にお会いできればと思っています。毎年両親と霞城公園の桜を見るのが楽しみでしたが、今年は仕事の都合で帰郷できなかったのが残念と思いながら近くのスーパーに入ったら、なんと山形のさくらんぼが! 桜の季節にさくらんぼ。すごい時代ですね。山形が恋しい!

(女優・劇作家、山形市出身)

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