渡辺えりの ちょっとブレーク

(169)一匹の痩せた猫

2019/6/29 21:40

 「三婆」の大阪公演も27日が千秋楽。昔、中村勘三郎さんとご一緒した道頓堀にある「松竹座」での公演。当時はまだ新人だった寺島しのぶちゃん、中村獅童さんも一緒で、みんなで毎日終演後に食事しては翌日からのさらなる進歩を目指しての、芝居の工夫の話で盛り上がったものだ。

 今回は3〇〇(さんじゅうまる)新作公演の「私の恋人」の執筆をしなからのハードな公演となった。新作を書きたくて仕方がないのに毎日疲れ切ってなかなか進められず、酒も一滴も飲まず、終演後はホテルにこもっている。

 サミットの影響でほとんどの大阪のホテルは満室で、しかも中国からの観光客であふれかえっている。山形のお祭りの日のような賑(にぎ)わいが毎日続く。喫茶店で朝モーニングコーヒーを飲もうと思っても、昔は1組か2組しかいなかった喫茶店は観光客で込み合っていて、注文してから20分たっても出てこないほどなのだ。

 開店前から観光客が並んでいるお店も数多い。デパート、ドラッグストア、喫茶店。今はインターネットで何でも調べられる時代なので、口コミで広がっていくようだ。

 東京に残してきた猫が恋しくて、昼公演だけの日に「猫カフェ」という猫を放し飼いにして接触できるという喫茶店に入った。

 中に入るとさまざまな種類の猫がソファやテーブルの下で寝ている。真ん中にツリーの形をした猫が上れる台がたくさんできた家具もある。

 猫は、抱っこは禁止。撫(な)でるだけ。餌は買ってあげても良いとある。

 触ってみたが、みんな固い。つまりリラックスしていないのだ。

 毎日知らない人たちに撫でられるのでストレスがたまっているのだろう。お客はほとんどが観光客の外国人。子供たちも大喜びで猫を撫でていた。しかし、私は何だか猫が気の毒になってすぐに出てきてしまった。保護猫も多く、猫は助かっているとも聞くが、朝から晩まで窓のない部屋にいて大勢の人に接触されるのは、猫にとってどうなのだろう。

 子供の頃、山形の村木沢で、野山を駆け回る猫を飼っていたせいか、自動ドアが開く度に逃亡し、引き戻される1匹の痩せた猫が最も猫らしいように感じてしまった。

 大阪での1カ月、劇場とホテルを往復する日々の中、監禁されたような気分になってしまったのかもしれない。山形の山々が恋しい。

 28日は新作「私の恋人」の宣伝で山形に帰郷して、記者会見を開いた。先日お会いして話をうかがった安田純平さんのエピソードなども話しながら、新作のテーマを語った。シリアの洞窟で夢想したクロマニョン人の人類愛が、現代人の夢につながる壮大なストーリーを1時間半にどうまとめるか? 皆さんお楽しみに。

(女優・劇作家、山形市出身)

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