渡辺えりの ちょっとブレーク

(176)「生まれて初めて」の出合い

2020/1/29 16:05

 生まれて初めて大相撲を観戦した。しかも升席で。毎日新聞で4年間連載している人生相談が本になり、新聞社が招待してくださったのだ。

 昔から自分が太っているため、太っている人同士が戦う相撲にあまり興味が持てなかった。鶴岡市出身の柏戸が活躍していた時代も、テレビで応援していた記憶もあまりない。

 30年くらい前に大阪のホテルのロビーで打ち合わせをしている大鵬を見かけた時、「すみません、握手してください」と声をかけた自分にびっくりした。柏戸と戦っていた美男子の大鵬が好きな自分がいた。しかも大阪で沢田研二主演の舞台を見た帰りに、その舞台の演出の大谷亮介とお茶を飲んでいる最中の出来事であった。

 とそんなことを思い出しながら升席に着こうとしていたその瞬間「じゅりこ! じゅりこ!」と呼ぶ声がする。相撲取りの名前ではなく、私の名前を呼ぶ声、しかもジュリーファンの私に高校時代の友人が付けたあだ名である。その声をたどると、同じ升席の後ろの席から、山形の高校時代に同じフォークロックグループで一緒だった愛ちゃんが大声で私を呼んでいるではないか。「?」生まれて初めて観戦する両国国技館になぜ? 八文字屋の次男五十嵐靖彦の奥様五十嵐愛子がなぜ?

 見ると息子夫婦とお孫さんたち。愛ちゃんの誕生日に息子さんが升席をプレゼントしたというのだ。こんな偶然もあるのか? 驚きながら初めて間近で生の相撲を見た。小さい体の力士が大きな体のブルガリア出身の力士を投げ飛ばす姿など、迫力があり美しい。勝った力士が次に取り組む力士に力水を与えるシーン。取り組みが終わった力士が、役者が花道を歩くようにして退場する姿など、今まで見たことのない凛々(りり)しい姿を目の当たりにした。

 招待券を2枚いただいたので「高安」と同級生だという元AKB48の秋元才加さんを誘って一緒に観戦したが、秋元さんが「初めて相撲を見た時、勝った力士が喜ぶ表情をせず、負けた方も表情を崩さない。両者ともポーカーフェースなのが凄(すご)いと思った」と言うのを聞いて、視点が面白いと感心した。さまざまな国がそれぞれの文化を持っていると思うが、勝った者が相手を思いやるスポーツ。自分を律するストイックな文化と言えよう。

 女性が土俵に入れないという、日本の歴史から見てそんなに古くないしきたりに固執する頭の固い面もあるが、想像した以上に楽しめた。そして満員のお客たちが熱狂し、その姿を見ながらビールを飲んだり焼き鳥を食べたりできたことに興奮して饒舌(じょうぜつ)になった。こんなにも大声で喋(しゃべ)り、絶叫しながら取り囲む観客の前で試合をする驚くべき集中力。

 1月5日で65歳になった私だが、生まれて初めてのことがこれからまだまだある気がした。山形の両親にも見せたかった。今までどうして思いつかなかったのだろう。父が大好きだったプロレスも、残酷だからと敬遠せずに連れて行けば良かった。母が小さい時から夢だったという万里の長城にも連れて行けば良かった。忙しすぎて仕事に追われ、気が付くと両親は車いすで介護施設。楽しいことがあると必ず苦労ばかりしてきた両親を思い出し、泣いてしまう自分がいる。今年は弟夫婦に大相撲升席プレゼントできるかな?

 4日のライブに来てくださった皆さま、ありがとうございました。台風19号で浸水し、農機具を失った川西町の方々への寄付を必死で集めていた遠藤さんに支援してくださった皆さま、ありがとうございます。被災した皆さまが農業を続けられるよう応援したいと思います。

(女優・劇作家、山形市出身)

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