(182)「花笠」題材の映画をいつか~渡辺えりの ちょっとブレーク|山形新聞

渡辺えりの ちょっとブレーク

(182)「花笠」題材の映画をいつか

2020/7/29 15:48

 8月5日は七日町大通りを花笠で踊るのが、私の人生で特別な楽しみの一つとなっている。炎天下に係の方から冷たい水や氷をいただくと、熱くなった脳細胞を冷やしてさらに踊りに集中することができる。踊っている最中は身軽にきびきびできるのに、終わった瞬間は倒れ込むくらい疲れている。2日後には筋肉痛で動けない。年を取ると翌日ではなく、2日後か3日後になるのである。

 と、こんなエピソードが浮かんでしまう。

 新型コロナウイルスの影響で、今年の山形花笠まつりが中止になってしまったのが本当に残念だ。前に強烈な雷のせいで中止になったときは悲しさと怒りを腹に押し込め、山形国際ホテルのロビーで、みんなで踊ったものだった。ゲストの宇梶剛士さん、白崎映美さん、ロケット団も東京のミュージシャンも、せっかくリハーサルですてきな踊りを披露してくださったのにもったいなかった。

 3密ではない祭りというのは聞いたことがない、触れ合わない祭りを考え出すことができるのだろうか? とにかく全世界の各地域で、リモートで花笠を踊ってもらうしかない。そしてその大きな映像を文翔館の前に掲げてもらおう。いや、そうするとそこに大勢の人たちが集まってしまう。その映像は家で見るしかない。そして映像と一緒に家で踊るしかないのだ。

 花笠まつりを題材にした恋愛映画を撮っていればよかったと後悔した。半年かけて練習した花笠がコロナで中止になってしまい、遠距離恋愛をしていた恋人同士が会えなくなってしまう-というような純愛ものはどうだろう? 山形のサクランボ農家の女の子と東京の大学生との恋である。中止になった花笠の本来の日程に合わせて山形県の全ての映画館で上映される作品を撮影すればよかった。再建を願って署名活動中の鶴岡まちなかキネマでも上映したい。よし、この映画の企画を県知事に相談させていただこう。楽しみになってきた。

 東京はコロナの患者が増え、演劇界も風当たりが強くなってきた。しかし、8月5日から、「女々しき力プロジェクト」の序章として延期になった30人出演の「鯨よ! 私の手に乗れ」の代わりに、2人芝居を上演することになった。私の新作で、当初は木野花さんとの1時間程度の即興劇を考えていた。少人数で小回りの利く演劇をコロナの今だからやろうと。低予算で、セットも簡単にとの予定だった。しかし、72歳のベテラン木野花さんは許さなかった。アドリブの部分もしっかり書いてちょうだい、きっちりと一本の芝居を書いて見応えのある面白いものにしましょう、とおっしゃるのだ。当初の思惑とは違ってきたが、とにかく必死で執筆中、乞うご期待。

 2人の人生と登場人物の人生を重ね、嘘(うそ)と真実を適度にちりばめて、演劇に対する熱い思いを表現できればと思う。永井愛さんの「片づけたい女たち」を3軒茶屋婦人会のベテラン男優たちが女性3人の役をリーディングするのも見もの。いつも私のコンサートでコントラバス、バイオリンを演奏してくださる川本悠自さんと会田桃子さんが即興で演奏してくださる。

 別役実さんの「消えなさいローラ」をなんと私と尾上松也さんが演じることになった。一生に一度あるかないかの企画になるだろう。県民会館で見た「ガラスの動物園」が好きで上京し演劇を始めた私。別役さんがその続きのオリジナルを書いたと聞いた時、すぐにお聞きしたら、別役さん本人はオーケーを出したのに翌日断られてしまった。奥さまに宛てて書いた作品で、奥さまが自分以外の役者が演じることを禁じていたことが分かった。

 20年前に断られた作品を65歳になってできることになった。信頼する松也さんとの2人芝居。これもぜひご覧ください。コロナ対策万全にして臨みます。

 山形の皆さまのために3公演とも配信いたします。山形のご家庭で、ご覧いただければと思います。

 コロナが今後どうなっていくのか。私たちはどうやって生活していくのか? 9月13日までの公演が終わったらまた故郷山形に帰り、両親に会いに行きたいと思います。

(女優・劇作家、山形市出身)

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