渡辺えりの ちょっとブレーク

(183)友情が生んだ奇跡

2020/8/31 15:25

 奇跡といってもいいだろう。8月23日までの「女々しき力プロジェクト・序章」が無事に幕をおろした。

 8月、9月と劇場を押さえ、20年前に劇作家の如月小春さん、岸田理生さんと約束した女性劇作家による女性を描いた作品の連続公演をする予定だったのが、コロナ禍で延期せざるを得なくなった。

 押さえていた劇場より小さな形になっても、同じテーマの企画をやってほしいと依頼があり、密にならず低予算でできないか?と知恵を絞った。客席は半分に、準備は少人数で進めなければならない。40年以上前から小劇場で共に歩んできた木野花さんに相談すると即協力の返事。故郷の青森で美術教師をしてから演劇のために上京した私より7歳年上で、頼りになる。劇団3○○(さんじゅうまる)の舞台は「りぼん」など3作に出演してもらっている。2人の即興芝居ならすぐにと思ったが、木野花さんは「きちんと新作を書け」という。私が書き上げ稽古する、ということになってしまった。

 というのは、9月に予定した「鯨よ! 私の手に乗れ」は出演者40人のうち30人が老女という設定で上演できず、劇団KAKUTAに劇場を譲り渡し、KAKUTAが予定した8月の座・高円寺(東京)の舞台を私が受け持つことになった。それがプロジェクト・序章の最初で、木野花さんとの2人芝居「さるすべり~コロナノコロ」。KAKUTAでは、「ひとよ」に私が役者として出演する。私は新作を書きながら二つの稽古場を行き来し、序章の一つ、永井愛さん作「片づけたい女たち」でリーディングの演出もした。出演した篠井英介、深沢敦、大谷亮介の「3軒茶屋婦人会」は昔からの友人で、3○○の舞台にも幾度か出演してもらっている。

 「さるすべり」も「片づけたい女たち」も好評で、配信映像も人気だった。序章の最後は「消えなさいローラ」。別役実作品だが、20年間誰にも上演されなかった2人芝居である。私が16歳の高校1年だった頃、山形県民会館で見たテネシー・ウイリアムズの「ガラスの動物園」に刺激を受け演劇を志したことは、この欄にもしょっちゅう書いたが、「消えなさいローラ」はその後日談ともいえる切ないミステリーである。

 ローラがロボトミー手術を受けた後、さまざまな事情が重なって母のアマンダを殺してしまい、母と姉の2役を演じながら弟のトムの帰りを待つ-というストーリーで、葬儀社を装った探偵がそれを暴いていくといった内容である。私の演出では、作家であるトム、つまりテネシー・ウイリアムズが、姉を残してきた悔恨からこの話を回想し、トムとして葬儀社や探偵を装っているという設定に変えた。ラストには歌も入れてしまった。「さるすべり」でも「片づけたい女たち」でも使った今回のテーマ曲「夢を創る」は、コロナ禍に夢想するしかなかった心情を軸にして「待つ」ということを問う内容である。「さるすべり」では私が歌うシーンを入れ、「消えなさいローラ」では尾上松也さんが歌った。

 トム役を松也さんが演じてくれて良かった。別役の不条理劇の長い台詞(せりふ)を短時間で覚え、体に落とし、ローラ役の私とバトルを続けてくれた。期待以上の心ある演技をしてくれた。演出のアイデアも出してくれ、頼りになった。配信の日に限って私が台詞を間違えて大爆笑になり、松也さんのフォローに大拍手が起きるという、昔の小劇場のような熱い舞台となった。

 序章の3作の稽古は、KAKUTAの稽古もしながらという厳しい状況だった。ラストの本多劇場(東京)で思わず泣いてしまった私だった。3作でのバイオリンとコントラバスの生演奏も素晴らしかった。スタッフ、友情出演のキャストは宝物だと思った。私は今まで友情の力に支えられ、奇跡はその力によって生まれた。

 9月3日から舞台「ひとよ」が始まる。映画では田中裕子さんが演じた役を演じる。13日まで本多劇場で上演され、10月3、4日は愛知県・穂の国とよはし芸術劇場で上演される。

(女優・劇作家、山形市出身)

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