第4部・連携の課題と新たな可能性(6) 無床化の金山診療所~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第4部・連携の課題と新たな可能性(6) 無床化の金山診療所

2022/4/25 13:00
2021年度から無床診療所となった金山町立金山診療所

 自治体病院が有床診療所へ、そして無床診療所へと縮小したケースがある。金山町立金山診療所は2021年度、19あった病床を廃止し、無床診療所に移行した。踏み切った主な理由は人手不足だった。19年時点で、15人いた看護師のうち5人は3年後に退職することが見込まれていた。それでは病棟の当直体制を維持するのは困難だ。加えて、町の一般会計から毎年約2億円を繰り入れ、財政的な負担も続いていた。

 同診療所は1951(昭和26)年、金山町立病院として開院した。患者数の減少などにより2008年に病床を50から19に減らし、町立金山診療所となった。無床化の方針を示したのは19年。町議会全員協議会での説明に続き、町報やホームページで町民に無床化への移行を通知した。当時いた入院患者は本人や家族の希望に応じて近隣病院へ転院した。

 意外にも、無床化反対の声はほとんど寄せられなかった。診療所担当者は「他病院との距離の近さ、元々の入院者数減が影響したのでは」と推察する。県立新庄病院(新庄市)や真室川町立真室川病院はいずれも車で15~20分ほどと比較的近い。また、診療所の1日平均の入院患者数は10年以上前から1桁で推移しており、影響は限定的だったとみられる。その中でも要望があったのが、医師による救急搬送時の判断と、みとり態勢の維持だった。

 金山町立金山診療所は2021年度から無床診療所となったことを受け、みとりの対応や救急搬送時の判断を常勤医らによるオンコール(院外待機)体制で行うことになった。患者が亡くなったり、容体が急変したりした場合、夜間や土日祝日であっても、家族や施設職員が当番看護師を通じて医師に連絡する。知らせを受けた医師は電話で救急搬送の判断を指示するか、あるいは患者の元に向かって診断をする。

 無床化となった時点で、同診療所の常勤医師は1人。365日無休の対応はとてもできない。対象は町内の特別養護老人ホームみすぎ荘の入所者、町立診療所の訪問診療や訪問看護ステーションを利用している町民に限った。土日祝日は新庄市最上郡医師会などの協力を仰ぎ、町外の医師がローテーションを組んでフォローしている。医師の体調を考慮し、土日祝日の、みとり対応は午前0時~5時を除いている。

 この態勢は本来、町が独自に採用した医師と、自治医大卒の派遣医師の2人で行うことが理想だった。現状では自治医大卒の派遣された常勤医1人で大半を担っており、担当者は「医師への負担が大きい」と語る。町は2人態勢にすべく後任を探すが、町が採用した医師が19年に退職して以降は見つかっていない。

 一方、無床化したことで、看護師はみすぎ荘や訪問看護ステーションに派遣できる程度のゆとりが生まれた。診療所では現在、6人の看護師が外来勤務を行っている。診療科は有床だった時と同じ内科、外科、小児科、疼痛(とうつう)外来を維持している。

 ただ、無床化の際に大きな反対はなかった町民も、これ以上町の医療が縮小してしまうことには懸念を示している。町が2月に開催を予定していた町政説明会に先立ち、20歳以上の町民を対象に実施したアンケートでは「赤字であっても診療所は必要」「高齢者のためになくさないでほしい」という声が複数寄せられたという。

 20年度の1日平均の外来患者数は42.0人。10年度の85.6人に比べ約半数に減っている。それでも、診療所担当者は「この医療態勢はなくしてはならない」と踏みとどまる姿勢だ。そのためにも、医師の確保が今後の重要な課題だ。

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