明日につなぐ地域医療

第4部・連携の課題と新たな可能性(4) 広域連携の姿

2022/4/23 15:08
山形市西部から望む市街地。県内全域を俯瞰(ふかん)した広域的な医療連携の視点も必要だ

 医療供給体制の再編、統合を考える際、単純な効率化が困難な理由の一つに救急の対応がある。対応できる救急告示病院は現在県内35カ所。病院によって異なる対応可能な傷病や緊急性についての情報を、消防を含めた関係機関で共有し、搬送している。

 緊急性の高い交通事故によるけがや脳卒中、心筋梗塞などの3次救急医療を担うのは山形市の県立中央と山形大医学部付属、川西町の公立置賜総合、酒田市の日本海総合の4病院。必要性に応じて県立中央病院を拠点にドクターヘリで対応している。半径100キロまで30分程度で到着できる設定で、4隣県と協定を締結し、協力態勢を整備している。ただ、荒天時は飛ぶことができず、雪国の本県では頼り過ぎることができない悩ましさもある。

 全国同様、本県も人口減少の半面で救急搬送は増加している。2018年と5年前を比べると人口が4.7%減ったものの、救急搬送された人の数は7.2%増えた。県は日中・平日の受診や救急電話相談の利用を奨励してきたが、18年までは増加に歯止めがかからなかった。

 一刻を争う「救急」の対応は一定の範囲ごとに確保する必要があるが、予定されている手術のような「ある程度待てる」医療は、広域的な視点から集約できる可能性がある。患者は既に地域の枠を超えて病院を選んでいる実情がある。山形大大学院医学系研究科の村上正泰教授(47)は「専門医療になるほど一定の症例数がないと維持できず、小さい単位で考えるほど機能確保が困難」と指摘する。

 村上教授は「拠点以外で全く診ないというのではない」と前置きした上で「専門的な急性期患者は人口減少で減る。高度医療、急性期医療をある程度、拠点病院に集約できれば医師の労働環境改善、医療人材確保にもつながる」と話した。

 医師不足は、24年度に医師への時間外労働上限規制が適用されるのを前に深刻度を増している課題だ。

 広域医療連携を考える際、分かりやすい例が山形大医学部東日本重粒子センター(山形市)だろう。どの角度からでも腫瘍に照射できる治療装置「回転ガントリー」を使った治療が3月8日に始まった。2021年2月25日から前立腺がん治療を始めた固定照射室と合わせ、本格稼働となった。対象部位が広がり、利用増加が期待される。

 総事業費約150億円を投じて整備した国内7番目、東北・北海道で初の重粒子線がん治療施設で、福島県などにある陽子線治療施設より腫瘍の破壊力が強い。通院しながら短期間で治療が可能な点への評価が、見込みを上回る予約数に表れている。投資を回収しながら、安定的に運用していくには県境を越えて多くの患者を獲得していく必要がある。

 山形大医学部は治療開始を前に、東北を中心に60以上の基幹病院が連携する「広域がん放射線治療ネットワーク」を構築。医師がテレビ会議システムで患者に最適な治療方法を検討できる仕組みを整えた。その中で重粒子線治療を選択肢に入れてもらう狙いだ。

 同センターは医療ツーリズムの受け入れによる地域活性化でも期待される。外国人患者に対応するため、山新観光(山形市)が「医療滞在ビザ」の身元保証機関に登録され、5カ国語で治療を支援する態勢を整えるなど、医療界の枠を超えた動きも出てきている。

 山形大医学部付属病院は高度医療を提供し、医師を養成するだけでなく、各地の病院に医師配置を行うなど本県医療を多面的に支えてきた。全県を挙げて同センターを活用していく視点と合わせ、同付属病院を核にした広域連携を考えられないだろうか。

 大学病院を核にした連携では、名古屋市内の二つの市立病院が同市立大医学部付属病院に移行し、来年4月までにさらに2病院が大学病院化される計画がある。同市立大付属病院は5病院となり、国公立で最大の病院群となる。付属病院に集約することで同市の医療施設の機能を最大限活用し、より高度で安全な医療を提供できるとしている。

 山形大の上野義之医学部長(61)は「医学部が担ってきた教育・研究分野の強みを生かし、4地域ごとに、ある程度医療が完結できなければならない」と県内医療の地域的な配置の在り方を説明する。その上で「県内の医療水準向上のため、医療提供にとどまらず、教育を兼ねられる場所を各地につくっていく必要がある」とし、医師の養成・指導態勢なども広域的に検討できないかとの考えを示す。

 庄内で11法人が参加する地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネット(酒田市)の栗谷義樹代表理事(75)は「大学病院と各地の基幹病院とで強力なプラットフォーム(土台)をつくっていければ、過疎地域まで責任を持って医療を提供する新しい態勢を構築できるのではないか。その際は財源もセットにしないと改革はできない」と話す。

 県内では多くの病院が赤字経営を続けている。赤字を改善せず、病院の存続のみ考えることは地域医療を守ることとはいえないだろう。財源が尽きれば、医療提供できなくなるからだ。医療財政を聖域にせず、医療資源の適正配置を考えることが地域医療の未来を考える第一歩になる。

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