第4部・連携の課題と新たな可能性(3) 都市部での病院再編~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第4部・連携の課題と新たな可能性(3) 都市部での病院再編

2022/4/22 15:15

 県内の病院(20床以上)総数は67。うち33病院が、県民の半数が住む村山地域に立地する。病院より規模の小さいクリニックも多い村山地域での医療集約、役割分担を進めることで確保した人材、資源、資金により、他地域を支えることは考えられないだろうか。全国では過疎地域に比べて医療資源が豊富な都市部でも病院再編の動きが出てきている。

 宮城県では県が主導し、仙台医療圏(6市7町1村)での4病院の統合・合築案が協議されている。医療圏全体を俯瞰(ふかん)して医療供給体制を再構築する視点からだ。名取市にある県立がんセンターと仙台市にある仙台赤十字病院を統合して新病院を名取市に整備、名取市にある県立精神医療センターと仙台市にある東北労災病院を、運営主体は別々に維持しつつ、建物を合築して富谷市に移転する案を提示している。関係機関による2022年度中の基本合意を目指す。

 宮城県が現状の課題の一つに挙げるのが、仙台市外から同市内への救急搬送件数の多さだ。中でも仙台市の北側に隣接し、富谷市など1市2町1村からなる黒川地域と、仙台市の南側に隣接する名取市の救急搬送(19年)はそれぞれ77%、71%が仙台市内に運ばれていた。年約5千件に上る。

 仙台医療圏全体で、重症・重篤患者の救命救急診療を行う3次救急と、手術や入院が必要な重症患者を診る2次救急に対応する病院は仙台市に集中している。2次の救急告示病院は黒川地域には1カ所あるものの、受け入れ能力は十分とはいえず、名取市には一般の患者を受け入れる2次救急告示病院はない。統合・合築で再配置されれば、黒川地域、名取市内の受け入れ態勢が向上するだけでなく、仙台市の受け入れ能力にも余力が生まれると期待できる、と同県は説明する。

 宮城県は仙台医療圏(6市7町1村)での4病院の統合・合築案を2021年9月に示した。21年10月の宮城県知事選では現職の村井嘉浩知事が統合・合築案を公約の一つに掲げて5選を果たした。しかし、この案に仙台市は疑問を呈している。「詳細な分析・検討がなされておらず、根拠に乏しい。仙台医療圏全体、仙台市の医療供給体制にどのような影響があるのか不明」と見るためで「賛否を含め判断できる材料が足りない」としている。

 同市は市外からの救急搬送が多い点は、重篤患者なども積極的に受け入れているためで、救急対応の病院が市内に偏在しているとするのは適当ではないと説明。今後20年は医療需要の伸びが見込まれており、現在ともに市内にある仙台赤十字病院(許可病床数約390)と東北労災病院(同550)の機能が市外に出る影響も懸念する。

 統合・合築の具体的な協議の顔触れに仙台市は入っていないが、県と市は互いの「考え方」を公表し合っている。宮城県医療政策課の担当者は、今後リハビリなどを行う回復期病床が不足する一方で、手術などを行う急性期病床は過剰になり、競合で病院経営を圧迫する仙台医療圏の課題も指摘。「入院・高度医療を提供する拠点病院の整備を目指す計画のため、市町村単位ではなく、仙台医療圏や県全体を単位に検討すべき課題だ」と強調する。

本県の首長は

 地域内での医療供給体制の再編、病院統合は「総論賛成、各論反対の議論」といわれる。地域全体での総病床削減には賛成するが、自分たちの病院や身近な病院がなくなったり、診療科目が削減されたりすることには反対が多いからだ。地域医療の在り方が地域の将来像、暮らしやすさに直結することが背景にある。

 本県4地域での医療再編の協議は、各病院の事務局や病院長が出席して行われている。しかし、県内には自治体病院が多く「病院側では統合や病床削減を決められない」と話す関係者もいる。仙台医療圏の事例では県、市の首長が政治判断した上で、それぞれの主張を行っている。それでも協議は難しいが、ある県内病院関係者は「もう猶予はない。政治判断がなければ議論は進まない」と漏らす。

 まずは首長による直接協議の場を設けるのも、一つの方策だろう。国に再編統合協議が必要と名指しされた県内7病院のうち、3病院が集中する西村山地域の首長はどう考えるのか。市立病院を持つ佐藤洋樹寒河江市長は「ある程度、考え方を整理した上で議論の熟度が高まりつつある時に首長が話し合うことが必要かと思う」、県立河北病院がある河北町の森谷俊雄町長は「病院の再編や在り方の議論では首長が参画できる場面があった方がいい」とする。

 町立病院を当面単独運営する方針の朝日町の鈴木浩幸町長は「自治体トップとしての機会があるなら出席すると思う」と述べた。

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