明日につなぐ地域医療

第3部・連携実施の先駆け(8) ヘルスケアネット誕生前夜(下)

2022/2/7 12:28

 酒田市の地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネットでの連携に先駆け、2011年、患者の同意を前提に電子カルテや服薬などの診療情報を介護事業所などが閲覧できる「ちょうかいネット」の運用が始まった。

 カルテの一部を開示するネットワークは他地域にもあるが「ちょうかいネット」の開示率は運用開始当初から100%。全国にもほぼ例がないという。診断だけでなく検体・細菌検査、PET―CTなどの結果、画像、動画も公開される。

 それまでは患者が受診医療機関を変えた場合、紹介状や薬剤処方内容、患者の話から病状を推測していたが、患者の話には誤認や不足のあることがあったという。同ネットの運用で正確な診断や検査結果を把握できるようになった。医療ミスや検査・投薬の重複の防止、診察時間の短縮にもつながった。退院後に介護施設に入所した場合も、入院中の経過を踏まえた介護サービスを提供できるようになった。

 病院、かかりつけ医、訪問看護ステーション、介護施設などが医療情報を共有することで、急性期・回復期・在宅医療まで一貫した方針で、切れ目のない医療サービスを提供できる仕組みだ。患者には、どの段階でも過去の診療内容を把握してもらっている安心感がある。情報はほぼリアルタイムで開示され、電話での問い合わせが不要になるなど各施設での業務効率化も格段に進んだ。参加法人からは「以前とは別世界」との声が上がった。

 「ちょうかいネット」は酒田地区で運用開始以降、徐々に参加法人が増え、2021年12月時点で約250施設が情報を閲覧できる。鶴岡地区も合わせ、登録患者数は庄内の人口の約2割に当たる5万3千人を超えている。

 同ネットも酒田地区の開業医に、かつての市立酒田、県立日本海両病院の勤務医を加えて開催されていた交流会や、病院と診療所の連携から生まれた取り組みといえる。

 酒田の医師交流組織「日和美(ひよりみ)会」が働き掛け、1991年に「病診(病院と診療所)連携」のシンポジウムを開催するのに合わせ、酒田地区医師会は病院、診療所にアンケートを行った。すると、診療所が病院に紹介した患者の多くが、その後、診療所に戻っていないことが分かった。背景には、開業医に任せることを不安に感じる勤務医が一定数いること、開業医からの紹介状の内容に個人差があると感じる勤務医が多いことがあった。

 病診連携の議論はさらに深められ、その後、「病診連携の会」が誕生した。2001年からは市立病院や地域の病院、診療所34施設が参加し、診療情報を共有する独自の回線ネットワークの運用を始めた。

 診療所から病院に紹介する際、以前は患者に紙の紹介状を渡していたため、患者が病院にいるうちに書かなければならなかった。回線の導入で診療後にじっくり書けるようになり、内容を充実させることができるようになった。カルテが電子化されると、同じ病院内での情報共有も容易になった。

 この事業計画を発表した99年の資料に、介護施設も参加した地域医療連携の姿が記されている。地域の主な医療、介護関連の10法人が参加し、切れ目のない医療・介護サービスの提供を目指す地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」に通じる考え方が既にあったことを示している。

 市立病院と県立病院の統合、ちょうかいネットの導入で通底するのは、関係者が同じベクトルで構想に向き合ったことだろう。「国や既存の制度が悪い」と他者のせいにせず、「地方では仕方ない」「どこも同じ」と諦めることなく、自分たちがやるべきことだと汗を流して実現していった。

 元酒田地区医師会長で、開業医と病院勤務医の交流の仕掛け人でもある本間清和県医師会常任理事(74)は「現場のメリットもあったが、何よりも、より良い地域医療のため、方向がそろった」と振り返った。

 ◆メモ 「ちょうかいネット」は個人情報保護の対策も徹底する。情報を暗号化し、認証された端末以外ではネットワークに接続できないよう設定。いつ、誰が、どこで、どの情報を見たか、記録を確認できる。万が一、医療従事者が守秘義務に違反した場合は罰則が科せられる。

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