明日につなぐ地域医療

第1部・なぜ、連携は必要か(7) 人口減の先に[下]

2021/10/8 13:03
看護師養成所を建設するはずだった新庄市の予定地(上)と、厳しい経営が続く小国町立病院のコラージュ

 医療の問題は住民に身近で、地域の存続と密接に関わるだけに、時に政局と絡み、地域を二分しかねない事態に発展する。背景には人口減少が進む中、単独では解決策が見いだしづらくなっている自治体の事情が横たわる。

 中心部から公立置賜総合病院(川西町)へは1時間弱。隣接自治体と離れ、冬は特に交通事情が悪くなる小国町は5年前、町立病院での人工透析治療を巡り揺れた。2016年の町長選で透析治療実施を掲げた現職に対し、当選した新人で現町長の仁科洋一氏は「専門医や看護師の確保が十分ではない」として計画を中止に。代替策として近隣自治体への通院を支援する送迎事業を始めた。相反する二つの決定はいずれも議会の議決を経ている。半年余りでの方針転換は選挙結果と絡めて語られ、「町が二分された」と感じた関係者もいた。

 「近くで治療できると喜んだ分、中止になった時は涙が出た。トップが変わると方針が変わるのかと。振り回されたという思いはある」。透析治療を17年続ける斎藤広実さん(73)=同町五味沢=は振り返る。現在、町の送迎支援を利用する透析患者は13人。斎藤さんも週3回、往復2時間かけて長井市に通う。当時を知る患者たちの何人かは亡くなった。一緒に通う人たちは現状に不満を感じていないように見える。

 斎藤さん自身は住み慣れた地域で最期を迎えたいと「町内で治療ができたら」と今も思う。一方で、小規模自治体単独では解決が難しいとも感じる。あらためて思うのは「これは県内に共通する問題。小国だけの問題にしてほしくない」ということだ。

 小国町立病院の医師不足は透析問題に揺れた当時より深刻だ。4人だった常勤医は本年度3人(うち1人は歯科医)に。外科は今年5月、産婦人科は10月から休診となった。山形大や公立置賜総合病院から月30~40人の医師派遣を受け、何とか回っている。

 人口減少や大規模病院で在宅復帰まで対応する動きが増えたことで患者数は減り、経営面は赤字が常態化。町の一般会計からの繰入額は2020年度、約4億円に上った。10年前から倍増し、町税収入約10億円の半分に迫る。特に20年度は新型コロナウイルス感染拡大で患者数が激減し、ほころびが一気に拡大した。地理的要因からなくすわけにはいかない病院自体を維持するため、診療科を絞っているが、「一通りの診療ができないと、人口はさらに減ってしまうのでは」という声も聞こえる。

 仁科洋一町長は「透析を含め、できるものなら診療科も全てそろえたい」と吐露する。ただ、そこには全県での医師不足、町財政の圧迫という課題がある。「町民がどこまでの医療で納得するのかという見極めをしながら、今後を検討するしかない。解はなかなか見つからない」

 新庄市の看護師養成所開設計画にもまた、首長選の結果が大きく影響した。

 県内4地区の中で最も顕著な人口流出、それに伴う看護人材の不足に歯止めをかけようと、市は18年、養成所開設に向けて乗り出した。しかし、運営費の財政負担が年間約8千万円に上ることなどが分かると、議会の賛否が分かれ始めた。その後、反対派の市議が開設の白紙撤回を掲げて19年9月の市長選に名乗りを上げた。看護師養成所が大きな争点となった選挙は山尾順紀市長が4選を果たしたが、55票の僅差だった。

 民意が二分した結果を受け、新庄市最上郡医師会は「計画に協力できない」と表明。医師会の協力を得られない状況では開設を断念せざるを得なかった。山尾市長は民意が二分したことを「選挙の宿命。全員から賛同を得られる政策はない。私の見通しも甘かった」と振り返る。そしてこう漏らした。「人口流出は加速している。さらに看護師の確保は難しくなってしまう」

 小国町や新庄市のようなジレンマは単独の自治体で解決できるものなのだろうか。そこに国や県はどう関わるのか。過疎地域にあっても自治体に委ねられてきた医療の在り方は根本を問いただす時期にきている。

=第1部おわり

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