第1部・なぜ、連携は必要か(5) 人口減の先に[上]~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第1部・なぜ、連携は必要か(5) 人口減の先に[上]

2021/10/6 12:51
佐藤萌以さん、心乃助ちゃん親子(左)と山崎香菜子さん、うたちゃん親子。佐藤さんも山崎さんも最上地域で子どもが健やかに育つことを願う=新庄市・「万場町 のくらし」

 新庄、金山、真室川、最上、舟形、大蔵、鮭川、戸沢の8市町村からなる最上地域。面積の8割を森林が占めるこの地は、県内他地域に比べて人口減少が顕著だ。県が4月に発表した国勢調査速報値によると、県内4ブロック別の人口減少率は村山3.5%、置賜6.1%、庄内5.7%なのに対し、最上は8.9%。要因の一つを最上地域の病院関係者の言葉に見た。「地図を見てみてください。ここは陸の孤島なんです」

 病院関係者が示唆するのは交通の便と冬季の降雪量の多さだ。地域の基幹病院である県立新庄病院(新庄市)まで周辺町村から車で30分以上を要する地区も少なくない。県内屈指の豪雪地。冬季はさらに移動に時間がかかる。

 新庄病院を基幹病院とし町立最上病院、町立真室川病院などからなる最上2次医療圏の現場にも影響は表れている。第7次県保健医療計画によると、2016年の人口10万人当たりの医師数は137.5人(県全体233.3人)、看護師数は1203.7人(同1358.5人)といずれも県内4地域で最も少ない。

 分娩(ぶんべん)可能な医療機関は新庄病院の1カ所のみ、医師の高齢化、看護・介護職の人材不足、病院までの距離-。最上地域に山積する課題は、県内他地域でもいずれ直面する問題なのかもしれない。ここに住む人、医療従事者は何を思うのか。最上地域を歩き、現状を見つめた。

 真室川、金山、鮭川3町村の最上北部医療圏(1次医療圏)を支える真室川町立真室川病院。現在の常勤医は5人で、このうち4人が65歳以上。室岡久爾夫院長は意外にも「今までで一番いい体制」と語る。地域医療は経験がものをいう。守備範囲を広く持ち、自前でできることをやる。「その点では今、すごく恵まれている。体力的には落ちているが、無駄なことをしなくなってきた」

 ただ、この体制が持続可能かは分からない。室岡院長は「あと数年後はどうなるか、確かに不安はある」と口にした。現在の定年は70歳。その後は1年ごとに契約更新する再雇用の道もある。今後は将来の過渡期に合わせ後任探しを行うが、最上地域への医師赴任は積雪の多さ、娯楽・文化施設の少なさなどから敬遠されがちという。最上地域に限らず、幼い子を持つ若い医師には地方の保育や教育の環境が懸念材料となることも多い。

 それでも入院患者の受け入れ、果てはみとりのために「地方にも病院は必要」と断言する。都市部に偏らず、地方にも安定的に存在するため「総合診療に力を入れる仕組み、国や県が医師や病院の配置を義務化するような動きでもあればいいが」と頭を悩ませる。

 病院が減っていることを住民はどう受け止めているのか。デザイナー佐藤萌以さん(29)=真室川町大沢=は2018年6月、長男心乃助ちゃん(3)を新庄市の県立新庄病院で出産した。最上地域で分娩(ぶんべん)可能なのは新庄病院だけ。「私が子どものころは個人病院が複数あった。選択肢があればいいなという思いはあった」と語る。

 もしもの時、車で約20分の道のりに耐えられるか不安で同市の実家に帰省して出産に備えた。帰省翌日に破水し、誕生の日はとても慌ただしかったというが、帰省していたことが功を奏した。初めての出産を経て思うのは「緊急性にも耐えられる地域であってほしい」ということ。「不安はあるけれど、この地で変わらず住み続けたい」と思っている。

 19年1月に長女うたちゃん(2)を宮城県で里帰り出産した編集者山崎香菜子さん(38)=最上町富沢=は「本当はこっち(最上地域)で産みたかった」と振り返る。17年に同町に移住。定期健診は新庄病院で受けていたが、出産は実家から近い病院を選んだ。高齢出産に加え、冬季の出産が不安だったからだ。自宅から新庄病院までは車で約40分。冬はさらに時間がかかる。健診時から運転しての通院は楽ではなかった。

 「できればもう1人欲しい」というが、当時出産した宮城県の病院は医師不足のため分娩を休止。次回は新庄病院での出産も考えられる。「最初は理想がいろいろあったけど、今は安全に産むことができれば、それでいい」と願っている。

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