明日につなぐ地域医療

第1部・なぜ、連携は必要か(3) 変革急務の背景

2021/10/3 12:36

 大きく開いた「ワニの口」。国の歳出、税収の推移を表す2本の折れ線グラフは、増え続ける歳出を税収で賄えず、その差が開いていく形を描いていることから「ワニの口」になぞらえられてきた。新型コロナウイルス禍で、2020年度の歳出は突き抜けるように跳ね上がり、「ワニのあごがはずれた」ともいわれている。不足分を埋めているのは借金(公債)。年金、医療・介護費などの社会保障費の増加が大きな要因になっている。

 国の財政を一般家庭に置き換えると、火の車の状況がよく分かる。20年度予算で、1兆円を10万円に換算してみると、収入551万円の家庭が1757万円のお金を使い、不足を埋めるため新たに1126万円を借金。累積の借金は1億円に迫る。誰が見てもやっていけるわけがなく、借金を返す見通しは立ちそうにない。巨額の借金は将来世代に残されることになり、その前に「破綻」の文字が頭をよぎる。

 公共経済学などが専門の三木潤一東北公益文科大公益学部長は「少ない国民負担で中程度の福祉を受ける『低負担、中福祉』を続けてきた結果。容認し得ない状況だ」と分析する。

 間もなく迎える25年には、団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者となる。財務省によると、75歳以上の1人当たりの医療費(18年)の国庫負担は、65~74歳の4倍、介護費の国庫負担は10倍に跳ね上がる。

 医療・介護体制の再構築が急がれるのは、この逼迫(ひっぱく)した財政状況と急速に進む高齢化・人口減少が背景にある。過疎地域では既に単独の地域で医療体制を維持するのは困難な状況だ。「今、再構築しなければ、取り返しのつかないことになる」。地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット(酒田市)の栗谷義樹代表理事は警鐘を鳴らす。

 人口減少・高齢化に対応して必要な病床の数や機能を見直し、適正に配置、提供することは都道府県単位で策定された「地域医療構想」に基づき、2025年を目標に進められている。

 同構想では▽救命救急などの高度急性期▽そこから安定化させる急性期▽在宅復帰に向けた医療やリハビリを提供する回復期▽長期にわたって療養が必要な患者に対応する慢性期-の機能ごとに需要と必要量を推計。在宅医療の需要も合わせて考慮している。県内は村山、置賜、庄内、最上の二次医療圏ごとに協議されている。

 重要なのが単純に効率化するのではなく、地域の実情に応じ、機能ごとに医療体制を提供すること。本県の実情に目を向けると、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、45年には本県人口は15年比で3割減の76万8千人となる見込み。高齢化率は33.4%(19年)と全国6位で、高齢者数は増加し続けてきたが、25年ごろには高齢者人口も減少に転じると想定される。

 つまり、患者数減少に合わせ、総病床を削減しつつ高度急性期・急性期機能を一定程度維持し、慢性期を充実させる必要がある。その先の介護、みとりの対応も考える必要がある。

 みとりでは診療所が重要な役割を果たしており、診療所の医師の高齢化と機能維持も課題になる。慢性期患者を受け入れられる病院がないと、患者は急性期病院にとどまることになり、手術や高度医療を担う急性期病院の役割を十分果たせない。さらに慢性期病院が患者を受け入れるには、介護の受け皿が不可欠だ。結局、介護を支えられなければ、高度医療の提供にも響くという構図になる。

 日本海ヘルスケアネット(酒田市)などの地域医療連携推進法人は、地域医療構想を実現する一つの手段。参加法人が独立性を保ちながら調整で機能重複や過剰投資を避けられる。日本海ネットは県平均以上の速度で人口減少が進む現状に高い危機感を持って臨む。

 日本海ネットに参加する本間病院の本間修理事長は「人口減少への対応を考えない医療・福祉関係者はいない。しかし、地域でまとまるのが難しい。日本海ネットは将来にわたって住民に医療・福祉を提供できる地域づくりを目指す点で一致している」と語る。地域内の機関が一丸となれるかが、持続可能な地域医療を実現できるかの分かれ道になりそうだ。

[PR]
[PR]